泪に溺れる夢を見た2

 いつの間にか寝ていたらしい。
 シーツから重たい顔を上げると頬がまだ湿っていたから、泣き疲れて寝てしまったんだろうか。この歳にもなって泣き疲れて寝てしまっただなんて恥ずかしい。目をゴシゴシとこすって壁にかかっている時計を見ようと顔を横に向けたとき、視界の隅に映る金色を見てギョッと目を見開いた。

「エ、ドワード……さん?」

 驚きで大きく出てしまったその声に「ん〜」何度かモゾモゾと動いた後、重たそうに薄く開いた瞼から金色の瞳が覗いた。いつからここにいたのだろう。椅子に座って寝ていたエドワードさんはふあと欠伸をしながら首を鳴らした。コキッと小気味良い音がする。
 な、なんでここにいるんだろう。でもエドワードさんが寝ているということは、彼が訪ねてきたときはもう泣き疲れて寝てしまっていたのかもしれない。ボッと顔が熱くなる。
 すると、まだむにゃむにゃと寝起き状態だったエドワードさんがハッとしたように半開きだった目を開いた。

「……! いや、この、これはえっとだな、その」

 慌てたように身振り手振りを動かしながら必死に違う、そう違うんだと一人で勝手に頷いている。
 唖然と眩しい瞳を見ていると、私が怒っていると思ったのかエドワードさんはごめんと申し訳なさそうに眉を下げてそう言った。別に全然怒ってなんてないのに。ごめん、もう一度そう言って立ち上がるエドワードさんに、今度はこちらが慌てる番である。誤解だ、私は1ミリたりとも怒っていない。出て行こうとする彼の赤いコートを無意識に掴んで引き止め、彼が驚いて振り返った時──後ろに垂らされた三つ編みが勢いよく馬のしっぽのように私の顔に衝突した。……いたい。

「……ええ!? え、ちょ、おま、大丈夫かよ!」
「だ……大丈夫です……コート引っ張ってごめんなさい…」
「わざとだと思ってる!?」
「私が引っ張ったから……コート伸びたかも……」
「違うからわざとじゃねえから!」
「うっ……」
「わ、悪いな……」
「い、え……ほんとごめんなさい」
「違うって、ほんとに! 目入ったか?」

 そうしてまた、申し訳なさそうに眉を下げる。心配して覗き込んでくるので「だ、いじょうぶです」と言えば安心したようにホッと息をついた。

「……わりぃ、勝手に入って」
「ぜ、全然それは……」
「寝てたから帰ろうと思ったんだけど……なんか俺も寝てた」
「疲れてたんですね」
「……かもな」

 ドアに向かっていたエドワードさんの足がくるりと方向を変えた。そのままさっきまで自分が座っていた椅子へと腰掛ける。どうやら暫くはここにいるらしい。ふぁ、もう一度大きく欠伸してグルリと部屋を見渡し、ふと目についたであろうロイさんの持ってきてくれた籠のリンゴを取ると、勢いよくかぶりつく。同時に甘酸っぱい匂いのする飛沫が宙へと舞った。シャクシャク、ゴクン。
 突然目の前でリンゴを頬張る彼にどうすればいいのか分からなくなって「えっと……エドワードさんは何か用事でも……?」そう聞くと彼は金瞳を細めてピクリと片眉を上げる。

「エドワードさんって……お前、まだそう呼んでんの?」
「……え、あ、はい」
「前も言ったのに」
「……言いましたっけ」
「エドでいい」
「でも……その」
「まあ慣れてからでいいけど」
「……はい」
「これも前似たようなこと言ったな」
「……ありがとうございます」
「何で礼なんか」
「……エド」
「……うん、それでいい」

 心が柔らかい太陽に照らされているようだった。さっきまでとは大違い、それこそ天変地異が起こったみたいに私の心はは明るくなる。ありがとう。もう一度そう言うと照れたようにエドはフイッと顔を横に向けた。唇を尖らせながら「べ、別に礼なんかいらねえよ」と言ってまたシャクリとリンゴをかじる。

 嗚咽をあげて泣いていたことなんて、もう頭に残っていなかった。
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