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 康一くんが不良になったらしい。

 高校生になった康一くんの学ラン姿はまだ幼なさが残っていてとても可愛かった。あれだけ可愛かったら女子にもモテるだろうし下手すれば男子にも可愛がられるだろう。きっと康一くんの事が好きでいじめるような馬鹿な男子もいるかもしれないと危惧していた矢先だった。SHR前に綾那が「最近康一の様子が変なのよ」と溢した一言で私は嫌な予感しかしなかった。

 その予感は大当たりで、移動教室に向かう時に詳しく聞いた話ではどうやら登校初日に仲良くなった不良たちとよくつるんでいるらしい。綾那の所感では康一くんよりもずっと背が高くてガラの悪い男子だっと。

「そんな、私のかわいい康一くんが不良に?」
「そうなのよ。でもいじめではなさそうなの」
「あんなに可愛かった康一くんが不良に?」
「そう。でもね早希。あの子笑ってるから本当に友達みたい」
「康一くん……」
「早希? ちょっと聞いてる?」

 信じられない。康一関係でショックを受けたのは康一くんが私のことを「さん」づけして話していた時以来だった。当時、綾那からその話を聞いて「お願いだから今まで通り呼んで欲しい」と泣いついたのがとても懐かしい記憶。自分の腰にしがみ付く私に少し眉をさげて恥ずかし気に「早希姉ちゃん」って呼んでくれたのが嬉しくて脳内カメラで激写したくらい可愛かったのに。そんな優しくて可愛い康一くんが、本当に、不良に?

 私の脳内は一瞬にて「康一くんが不良になった」に支配されていた。今日の数学は出席番号で当てられるから予習しておかないといけないとか、英語の小テストの勉強をしてなくてやばいとか、そんな小さな悩みなんてすっかり抜け落ちていた。
綾那が何か言っているみたいだったけど、もう彼女の言葉なんて耳に入ってこない。「不良」になった事実を一刻も早く確かめに行かなければいけないと思った。この目で確かめて、そしてもし本当だったとしても入学して日が浅いから、まだ間に合うはず……。

「綾那、私に任せて!」
「早希? 何が任せてなの? あっ、待ちなさいってば!」

 放課後、私は足早に綾那の席へ行き「康一くんは任せて」と伝えてから教室を出る。後ろで綾那が何か言っていたような気もするけど、今は康一くんを最優先にしたかった。ごめん綾那、また明日ちゃんと聞くからと心の中で謝りつつ、康一くんのいる学校へと全速力で向かう。


  
back両手で掴んで
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