颯爽と走り去る姿は



 寒くて息が真っ白になる今日は、あの有名な雄英高校の入試日です。
たくさんの受験生が門をくぐる中、私、直守知結は門の前で、入試直前に届いた一通の手紙を握りしめていた。


「やっぱでっかいなー」

 試験会場にむかう受験生たちが、私の制服を見て驚き、囁きながら通り過ぎていく。
私立華蝶女学院。箱入りのお嬢様たちが通う、伝統ある女学院の制服を身にまとっている私は、ある意味注目の的なのかもしれない。
たしかに、幼稚園から大学まで一貫された学校であるし、ほとんどが進学後の就職先も約束されているような学校でもある。まず、そこに通うお嬢様たちは絶対に外部受験などしない。
その制服を着た私が受験会場にいるのだ。そりゃあ目立ってしまうのも無理ない。これ以上無駄に目立つのも嫌だから、さっさと向かおう。


 どうして私はここにいるのでしょうかねぇ?
「賽は投げられてんぞ!!??」とGOサインを出すプレゼント・マイクの声と、共に走り出す受験生たち。その中に雄英高校の体操服を着た私がいた。
目的地を見つけられなくて迷子になっていた時、体操服を持って更衣室に移動する受験生たちの波に巻き込まれ、1人の受験生に真正面からぶつかってしまったところ、注意され、体操服を持っていないことに疑問を持たれた。
理由を話そうとする前に受験生はプレゼント・マイクに声をかけ、なんやかんやで体操服を貸してもらうことになったのだ。
そこからまた、なんやかんやでバスに乗ることになり、なんやかんやで現在に至る。


「受験生じゃないんですけど……」

 ちょっと嘆いてみても、そんな声は受験生たちの足音にかき消されてしまう。バスで移動してしまったし、今更受験生じゃありませーん。なんて言えば不審者扱いされるに決まってる。まぁ、いいっか。未来のクラスメイト探しでもしてれば。とゆっくり集団を追いかける。


「うらぁあああああ」
「おりゃああああ」

 私が市街地の中心に到着する頃には、すでに戦闘が始まっていて、あちこちに破壊された敵が散らばっていた。
各々が個性を使った攻撃をしていて、思わず声が漏れる。


「わぁ……素敵」

 あ、やべ。にやけてた。さすが雄英志望の受験生たちだ、レベルが違うや。
今は体操服だから分からないけれど、さっきぶつかった人だって有名なエリート校の制服を着ていた。そんな彼らにとってはこれくらいの試験、なんてことないのかもしれない。ほんと、すごい。
 ポイントを稼ぐために必死になっている受験生たちを横目にやり、フラフラと市街地を歩く。受験生じゃない私に出来ることは限られている、邪魔をせずにアピールできることと言えばひとつしかない。よっしゃ!張り切っていこうぜ!と右手を鳴らした。


「(お、あそこに人発見)」



「チッ、さすがに数がおおいな」
「怪我してる?」
「うわっ、お前だれ?!」
「あー、うん、受験生?」

 特に意味はなかったが、ゆっくりと背後から赤髪のツンツンした少年に話しかける。驚いて振り返った彼は所々が個性によって強化されているようだった。瞬間、彼は一歩退いて距離をとる。
あれ、もしかして私の行動に不審感を抱いている?その証拠に、彼は先ほどまで緩めていた個性を強く主張させていた。
なるほど……受験中に話しかけることに酷く警戒してるってことは、もしかして妨害されるとか思ってるのかな?それは正しい判断ですよ赤髪くん。
そうだよね、倍率高いし弱肉強食の世界だもんね、そりゃあ警戒するよ。
普段なら声かけただけで退かれるとか物凄く凹むけど、今回は拍手をしたい気分!やっぱり雄英の受験生はレベルが違う。


「手」
「な、なんでだよ」
「いいから手」

 拍手拍手。警戒する彼を無視して、距離を詰める。
ああ、もうじれったいなぁ。切り傷のある彼の右腕を掴み、もう片方の手で傷に触れる。
びっくりする彼に、ちょっと痛いけど我慢な?とだけ言い、数回傷まわりを撫でた。傷は直ぐに消えてなくなる。
その様子に、妨害されようもんなら空いた手で攻撃しようと警戒していた彼の顔が驚きに変わり、硬化した左手を下げてくれた。ありがとう、それ結構怖かった。声には出さなかったがお礼を言う。めっちゃ怖かったんだぁ……。


「すげえなお前……」
「他は?ない?」

 感心していただけて光栄です。私は勝手にあちこちをさぐって傷を治していく。ふぅ、これでひと通り完了かな。最後に腰にぶら下げている人形を指で弾いて、彼から一歩退いた。


「ほい、完了」
「俺は切島鋭児郎だ。ありがとな!」
「直守知結、これくらいしかできないからね」

 スッと右手をだされる。お、まじか。
私もすぐに笑顔で右手をだして握手を交わした。この子律儀だ!いいね、ヒーローになってもその心忘れないでね。


「じゃあ最後まで頑張って〜」
「お互い受験頑張ろうな!」
「ははは……」

 ヒラヒラと手を振って切島くんと別れた。別れ際に言われた言葉が、チクリと胸にささったことは内緒にしておこう。
それよりも……時計を確認して考える。1人探し出すのにだいぶ時間を使ってしまった。残り時間も少ない。はやく次を見つけないと。


「人はいませんかな」

 そう考えるが、なかなか見つからないのが現実だったりする。暫くキョロキョロと見回しながら探していると、右方向で時々光っているのを発見した。これは誰かの個性……!ニヤリと口角を上げると、その光に向かって思いっきり駆け出した。


target:切島鋭児郎
(あいつ漢だな……。)

  
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