草いきれの匂いが風に揺らぎ、軒先の影すらも熱を帯びる午後のことだった。
茹だるような夏の温もりに参っていた珠蓮だったが、遠くから運ばれてきた便りにはそれらを吹き飛ばすような明るさが詰まっていた。
つるりとした封筒には、レインボーローズの封蝋が刻まれ、封筒を切ると、彼女らしい薄桃色の便箋がひらりと滑り落ちる。珠蓮は日向の匂いがほんのりと染み込んだその紙をそっと拾い上げると、整えられた丸い文字に目を通していった。
近頃すっごく暑いけど、ばててない?
年上の友人は相変わらず忙しくしているようだ。この手紙もその合間を縫って認められたものだろう。フルールらしい真心の込められた文章に、珠蓮の頬がふわりと綻ぶ。
「師範に相談して、お休みを貰おうかな……」
フォンテーヌは決して近いとは言えない場所ではあるが、かつて鍾離と共に観劇に訪れたその都の面影は、珠蓮の胸に微かな水音のように残っていた。
水面を渡るそよ風が、花びらを誘うように、珠蓮の心をふわりと運んでいく。まだ訪れぬその日に浮足立つように、珠蓮は実に軽やかな足取りで師らのもとへと向かった。
珠蓮の休暇の願いではあっさりと受け入れられ、久々の休みをよく満喫するようにと言葉をかけられた珠蓮は、ふわりと頭を垂れて礼を返すと、そのままくるりと踵を返し、部屋に戻ってフルールへの返事を認めた。
素敵なお誘いをありがとうございます。
書翰箋を流れる筆は、羽のように軽やかだった。淡い水彩のような想いを、一文字一文字にそっと染み込ませて。
会いたい≠ニいう気持ちと、誘ってくれてありがとう≠ニいう気持ちを、珠蓮は静かに紙の上へと落としていく。
封を綴じるとき、珠蓮はほんの一瞬迷ったあと、庭先に咲き誇っていた花をひと枝選んだ。枯れぬようにそっと仙力を込めて、それを手紙に添える。この便りがフルールのもとに届く頃には、季節もきっと、少しだけ先へ進んでいることだろう。
手紙を書き終え、封を綴じた珠蓮は、その余韻を胸いっぱいに抱えたまま、ふわりと身を起こす。
仙力を込めたばかりの手が、まだ少し温かい。その足は、気づけば望舒旅館の方へと向いていた。この気持ちを一番伝えたい相手がそこにいるのを知っているから。
「魈、いる?」
逸る心のまま、僅かに息を上げて高台へと声をかけた珠蓮の前に、「何だ?」と魈が柔らかな風を纏い、静かに現れる。顔を上げた珠蓮の瞳には、淡く、嬉しさが滲み出ていた。
「あのね、お友達からお手紙が届いたの。すっごく嬉しくて、楽しそうで……パジャマパーティー? っていうのをするんだって!」
茹だるような夏の温もりに参っていた珠蓮だったが、遠くから運ばれてきた便りにはそれらを吹き飛ばすような明るさが詰まっていた。
つるりとした封筒には、レインボーローズの封蝋が刻まれ、封筒を切ると、彼女らしい薄桃色の便箋がひらりと滑り落ちる。珠蓮は日向の匂いがほんのりと染み込んだその紙をそっと拾い上げると、整えられた丸い文字に目を通していった。
大好きな珠蓮ちゃんへ
近頃すっごく暑いけど、ばててない?
ちゃんとごはん食べてる?
アイスばっかりじゃダメだよ〜!
でも、ちょっとならいいよね♪
一緒に食べちゃおっか(˶ᵔ ᵕ ᵔ˶)
それでね、ルリちゃんと今度パジャマパーティーしよって話してて、よかったら珠蓮ちゃんもどうかな?
かわいいパジャマ、絶対似合うと思うんだ〜!
場所の方は最近暑いし、フォンテーヌにしようかなって思ってる!
もし来てくれるなら、たくさんたくさん素敵なところを案内するよ〜!
話したいことがいっぱいあって、お手紙が分厚くなっちゃいそうだから今回はこの辺にするね!
会えるの楽しみにしてる!締切間近!のフルールより
年上の友人は相変わらず忙しくしているようだ。この手紙もその合間を縫って認められたものだろう。フルールらしい真心の込められた文章に、珠蓮の頬がふわりと綻ぶ。
「師範に相談して、お休みを貰おうかな……」
フォンテーヌは決して近いとは言えない場所ではあるが、かつて鍾離と共に観劇に訪れたその都の面影は、珠蓮の胸に微かな水音のように残っていた。
水面を渡るそよ風が、花びらを誘うように、珠蓮の心をふわりと運んでいく。まだ訪れぬその日に浮足立つように、珠蓮は実に軽やかな足取りで師らのもとへと向かった。
珠蓮の休暇の願いではあっさりと受け入れられ、久々の休みをよく満喫するようにと言葉をかけられた珠蓮は、ふわりと頭を垂れて礼を返すと、そのままくるりと踵を返し、部屋に戻ってフルールへの返事を認めた。
親愛なるフルールさんへ
素敵なお誘いをありがとうございます。
是非、その素敵な集まりに私も参加させてください。
こういったことは初めてで、何だか胸がふわりと波立つような心地です。
フルールさんとルリさんが一緒なら、きっととても楽しい夜になると思います。
とても楽しみで、どんなパジャマにしようかと今から決めあぐねているところです。
けれど、こうして思い悩むひとときもまた、心くすぐる楽しさを感じるものですね。
お二人のお召し物を想像しながら、どんなお話をしようか考えてその日までの時間を過ごそうと思います。
追伸
今年の璃月の夏は暑いので、最近は沈玉の谷に向かう頻度が増えました。
そちらで摘んだ新茶がとても美味しいので、お土産に持って行こうと思います。
フルールさんもどうかご自愛くださいね。
その日が待ちきれない珠蓮より
書翰箋を流れる筆は、羽のように軽やかだった。淡い水彩のような想いを、一文字一文字にそっと染み込ませて。
会いたい≠ニいう気持ちと、誘ってくれてありがとう≠ニいう気持ちを、珠蓮は静かに紙の上へと落としていく。
封を綴じるとき、珠蓮はほんの一瞬迷ったあと、庭先に咲き誇っていた花をひと枝選んだ。枯れぬようにそっと仙力を込めて、それを手紙に添える。この便りがフルールのもとに届く頃には、季節もきっと、少しだけ先へ進んでいることだろう。
手紙を書き終え、封を綴じた珠蓮は、その余韻を胸いっぱいに抱えたまま、ふわりと身を起こす。
仙力を込めたばかりの手が、まだ少し温かい。その足は、気づけば望舒旅館の方へと向いていた。この気持ちを一番伝えたい相手がそこにいるのを知っているから。
「魈、いる?」
逸る心のまま、僅かに息を上げて高台へと声をかけた珠蓮の前に、「何だ?」と魈が柔らかな風を纏い、静かに現れる。顔を上げた珠蓮の瞳には、淡く、嬉しさが滲み出ていた。
「あのね、お友達からお手紙が届いたの。すっごく嬉しくて、楽しそうで……パジャマパーティー? っていうのをするんだって!」