金髪だったきみ




私の好きな人は最近、金髪から黒髪に変わった。真面目そうな見た目になっちゃったし何か寂しいな、と思う。
隣に座ってマジカルホイールの雑誌を読むのに夢中なデュースに構って欲しくてツンツンしたりちょっかいをかけてみる。

「ナマエさん、どうしたんすか」
「デュースにせっかく会えたのに雑誌ばっかりで寂しいな、って。ホリデー終わったら帰っちゃうんでしょ?」

1つ年下のデュースはあの名門のナイトレイブンカレッジに通ってて、全寮制だからこういう長期休みにしか会えない。なのにせっかく2人でいるのに雑誌は寂しいよ私。少しむくれ顔をしてデュースを見つめる。

「デュースは私と一緒にいて楽しくない?」
「えっ、いや、そんな事は絶対にない!」

オロオロしながら必死になるデュースを可愛いなあ、と思いながらデュースの前髪を少しいじる。あれだけ脱色してたのに髪はつやつやした黒で羨ましい。そうしているとデュースが私の手を掴んだ。

「やっぱ、金のほうがよかったっすか」
「んー、金髪でも黒髪でもデュースならなんでもいい」

そう言って私からデュースに触れるだけのキスをした。びっくりして口をパクパクさせたデュースはまだ初々しさが抜けないなあと思う。
キョロキョロ視線を泳がせたと思ったらガシっと両手がデュースの手に包まれる。そして真剣な表情になったデュースが私にキスをした。

「そう言うの、俺から、したい、から…」
「だめだった?」
「やっ、だめじゃないが!」

少し頬を染めたデュースに抱きつく。やっぱり私からおねだりするのは、はしたないかな?でも久々に会ったんだもん。私だってれっきとした女の子でそういうコトだってしたい。デュースの胸にすりすりと頬を擦り付ける。

「デュースとえっちしたいなって思う私は嫌い?」
「その、違っ!ああもう!久々にあって早々、押し倒して盛ってたらナマエさんに嫌われるかなって思って…た、んです」

語尾がだんだんと弱々しくなっていくデュース。じゃあ本当は雑誌見てたんじゃなくて、私の事考えてたのかな?それだったら凄い嬉しい。顔を上げてデュースを見つめる。両手でデュースの頬を包むとさっきより甘いキスを送った。


*


出会った頃のデュースは金髪でピアスは何個も開いていて、見た目の通り荒れていた。
でも今と変わらずとっても優しいデュースは道端で絡まれてる私を助けてくれたんだ。

「や、あの、私、何もしてないんで…。離してください」

私の手を掴んだいかにも怖そうなお兄さんは、私を睨みつけると掴んだ手をギリッと力を込めた。もうなんでこんな事になったか分かんないけど、泣きそうだ。誰でもいいから助けて欲しい。
するとお兄さんの後ろに人影が現れたと思ったらドスッと鈍い音がしてお兄さんが横に倒れる。いきなりの事にびっくりして固まっているとお兄さんを蹴り倒した男の子が話しかけてきた。

「大丈夫っすか、困ってそうだったんで」
「う、うん」

両耳に何個もピアス開けて口元は何故か切れて少し血が出てた。いかにも喧嘩帰りって感じの男の子に私は余計に怖くなる。また何かされるのかな、嫌だ、早く帰りたいんだけど。

「お姉さん、家どのへんすか。ここら危ないんで送ります」

これがデュースとの出会い。今思えば助けてくれたけどデュースもデュースでなかなか怖い見た目をしてたと思う。
その後、家が近所だったりしてちょこちょこ話すようになってた。たまにスーパーで会うと私の荷物持ってくれたり、見た目に似合わず優しい子だなあって思った。


そして、デュースからの告白は凄く突然だった。

「ナマエさん、初めて見たときから好きでした!付き合ってください!!」

家に帰ってきたら玄関前にヤンキー座りして待ってて、そしたらいきなり詰め寄ってきてびっくりするぐらいの声量で告白された。

「えっ、と、、」
「俺の事、嫌いですか?」

告白が突然過ぎて戸惑ってると、眉を下げてそう言ったデュース。しょぼんと垂れた犬耳が見えそうなくらい悲しそうな表情をして何故か私が申し訳なくなる。

「き、嫌いじゃないけど…。」
「そうか!よかったあ〜〜」

心底安心した顔でデュースは私を抱きしめてきた。えっ、私告白OKしてないんだけど。
ぎゅうぎゅうと力を強めて抱き締めるデュースからようやく解放されるとこう言われた。

「今日から、ナマエさんの!か、彼氏としてよろしくお願いします!」

真っ赤な顔してお辞儀をしたデュースに少し可愛いなって思ってしまって、言いたいことが全部飛んでいってしまった。
デュース自身は何も思ってないと思うけど、私達はそんな感じでふわっと付き合うことになった。
そして私は人一倍硬派で、でも好きなことになると凄い子供っぽくなるデュースをだんだんと好きになった。



「ナマエさん!俺の後ろ乗ってください!」
「デュース、私マジカルホイール乗ったことない」
「大丈夫!俺に捕まってればいい。風をきる感覚は凄い気持ちがいいんだ」

マジカルホイールの後ろに乗せてくれた時の背中の大きさと安心感は未だに忘れられない。最初は怖くて目も開けられなかったけど、連れて行ってくれた海の景色はハッキリ覚えてる。

「ナマエさん、最近元気無さそうだったから…。ここ、俺が悩んでる時にいつも来るんだ。海を見てるとなんかスッキリするから」
「……、私デュースが行っちゃうの嫌だなって。」

全寮制の学校にデュースが選ばれたときは複雑だった。デュースと離れ離れになる事も、大好きだった金髪も黒に変わっててどんどん知らない人になっていくようだった。
でも、お母さんの事もあって真面目になろうとしていたデュースの邪魔になるからそんな事は言えなくて。

「ホリデーには絶対帰ってくるし、ナマエさんに呼ばれたら週末だって戻ってくる」
「デュース…、」

前髪をちょんと撫でるデュースの顔がいつになく真剣で、安心した。
堪らなく愛おしくなって私からキスをしたら顔を真っ赤にさせてアワアワするデュース。

「ふふっ、なんか今のデュースの顔見てたら安心した。ごめんね?」

そうデュースに笑いかけると、何も言わずにキスをされた。ニヤっと笑ったデュースは「お返しだ」と小さく言うと私を抱き締めた。