パーティーを抜け出して




「毎週毎週あきてくんなー」

目の前にあるショートケーキの苺にフォークを刺して頬張る。今日はハーツラビュル寮伝統の"何でもない日"おめでとうのパーティー。
だけど、最近うちの寮長は機嫌がいいのか毎週のようにパーティーを開いている。準備する側にもなれっつーの。
あいつはあいつであっちのテーブルでデュースとか他の1年とワイワイしてるし、今日は大好きなチェリーパイも無い。そのせいでオレの気分はどんどん下降線を辿っていく。

「エース楽しくない?ずっと真顔じゃん」
「楽しいって言ったら嘘になる」

するとわちゃわちゃしてた輪から抜けたナマエがオレの方にやって来た。こいつのこういう周りが見えてる所好きだなってふと思う。
まあ、素直に言ったら言ったで「なに?エース変なものでも食べた?」ってニヤニヤしそうだから絶対に言ってやんない。

「今日、チェリーパイないもんね〜。私は苺のショートケーキあるから最高」
「そんな食べてると太るぞ」
「うるさい。摂取した糖分は全部脳に行くから大丈夫なんです〜」

減らず口を叩きながらオレの隣に座ってショートケーキを口いっぱいに頬張る姿はいささかリスのようだった。
無意識にナマエの頬に手を伸ばす。はりのあるすべすべした頬を指でするりと撫でると、少し恥ずかしそうにした。

「な、なに?」
「なあ、パーティー抜けてどっか行こうぜ。さすがに毎週もやってると飽きた」
「寮長にバレたら首はねられるじゃん、やだよ」
「そんなん上手くやればいいだろ。オレを誰だと思ってんの」

エース様だぜ?とキメ顔で言ってやると冷めた視線を向けられた。オレの彼女なんだからもっと可愛らしい感じ出せよ、とも思ったけど2人の時はもっと甘い雰囲気になるから彼女なりのスイッチがあるんだろう。

「これからクロッケー大会もあるし、上手くできるの?」
「今回オレもお前もクロッケー大会出ないでしょ?片付けまでに帰って来れば問題ないって」

左手をそっと撫でて指を絡める。そしてゆっくりと耳元に顔を寄せた。

「部屋にでも戻ってさ、イイコトしよーぜ」

耳がめっぽう弱いナマエは耳元でこう言っただけで顔を真っ赤に染めた。ダメ押しに、ふーと息を吹きかけるとカシャンと手に持っていたフォークがお皿の上に落ちた。

「ふはっ、真っ赤じゃん。ホント耳弱いな。」
「エースのせいじゃんか…」
「で、どーすんの?抜ける?」

こくん、と頷いたナマエの手をしっかりと握ると席を立った。こっそり、バレないようにパーティー会場を抜ける。
オレ達は寮へ戻るために薔薇の迷路を進んで行く。ある程度来たところでオレは立ち止まった。

「エース?どうしたの?寮戻らないの?」
「んー、その前に忘れ物」

振り向いたら不思議そうにこちらを見上げるナマエの顔が見えた。繋いでた方の手を引き、こちらに近づいたナマエの唇にキスをした。
突然のキスに驚いたのか肩が揺れ、抵抗される。逃さないように腰を引き寄せてさらにキスを深くさせる。

「ん、…ふぅ」
「っは、…その顔やば。興奮する。」
「ばかッ、ここまだ部屋じゃない」

そう言ったナマエにバシッと腕を叩かれた。さっきと同じくらい真っ赤にさせながら抵抗されてもオレを煽るだけだって事にいつまで経ってもこいつは気が付かない。

「オレはここでもいーけど?外の方がスリルあっていーじゃん」
「外ではしないからっ」
「じゃあ、部屋ならいーの?」

ぷりぷり怒っているナマエの顔を覗き込んでそう聞いた。すると俯いてスカートの裾をきゅっと握って小さな声で答えた。

「う、ん…。部屋ならいいから…」
「早くオレの部屋いこ」

ぽんぽんと頭を撫でて、顎を持ち俯いていた顔を上げさせる。ちゅっと触れるだけのキスをしたあと、また歩き始めた。少しだけ早足なのはオレも健全な男子高校生だから。
オレは道中、片付けまでに何回できるかを逆算し始めていた。