ウサギの世話係




「オレはナマエちゃんの世話係じゃないんで」
「っ、そんな事言わないでよっ。ラギーくんいないと私サバナクローでやっていけない…」

そう言って涙目になりながらサラダバーを両手で持ってポリポリ食べるナマエちゃん。しゅんとした顔でこちらを見つめてくる。

「むしろオレは大丈夫な事のほうが驚きっていうか…。オレ以外の寮生は無理って転寮考えた方がいいっスよ」
「や、やだ。」
「はあ、じゃあもう慣れてとしか…」
「それも無理ぃ…」
「ナマエちゃん、ケーキとか甘いものも好きだしハーツラビュルの方が似合ってるんじゃないスか?」
「ラギーくん、なんでそんなこと言うのっ、もう知らないっ」

そう言ってプイとそっぽを向くナマエちゃん。今度は頬をぷくっと膨らませて怒っているようだ。コロコロ表情が変わって本当に飽きないなあ、と思う。

「…あー、ほんと食べたい。」
「た、食べ!?」

ナマエちゃんの長い耳はぴくんと動いてオレの小さな声も聞き取ってしまう。オレの発言にあわあわしているナマエちゃんの耳をひと撫でして耳元に口を寄せる。

「そんな可愛い顔してるとナマエちゃんなんてすぐ食べられちゃうんスから、オレ以外の前でしないで」

ぼふん、と効果音がつきそうなくらい顔を紅くさせたナマエちゃんの頭を撫でて軽くキスをする。ぴくっと肩が揺れ目が潤んでくる。あー、言った側からこの子は。

「オレ、レオナさんにデラックスメンチカツサンド届けてくるんで少しだけ待ってて」
「えっ、ラギーくん私もっ」
「ナマエちゃん、レオナさん見たらいつも怖くて泣いちゃうじゃないスか。すぐ戻ってくるから」

子供に言い聞かせるように優しく目を合わせて言ってやると、こくりと頷いて大人しくなった。もう一度頭と頭を撫でると早足でオレはレオナさんのところへ向かった。


*


「…なんでこうなってるんスかねえ」

オレがレオナさんの所から帰ってきたらジャックくんと、ジャックくんから数メートル離れた柱に震えて蹲ってるナマエちゃんがいた。ナマエちゃんはオレを見つけると駆け足で俺に寄ってくる。

「うっ、ラギーくっ、助けて」

オレの後ろに隠れて制服の裾を掴んで小さく震えてるナマエちゃん。涙目になって可愛い、なんて思ってしまう。この子は本当に無意識に人の加虐心を掻き立ててしまう。

「いや助けるも何もジャックくんじゃないッスか」
「ラギー先輩、すみません。ナマエ先輩に話しかけようと思ったら逃げられてしまって…」
「…っ!」

ジャックくんが離す度に後ろでビクッと肩を揺らすのが分かる。オレは小さいため息を着くと後ろにいたナマエちゃんの手をそっと握って安心させる。

「ジャックくんは何も悪くないッスよ。ナマエちゃんには俺から伝言しておくんで」

ナマエちゃんへの用事を軽く聞くとジャックくんは帰っていった。ジャックくんが帰っていったのにも関わらず未だにオレの後ろにくっついている小動物を見て、またため息が出た。

「うちの寮にいるんだから、そろそろ慣れてもらないと困るんスけど。ナマエちゃんもう2年でしょ」
「そんな事言っても、みんな大きくて怖いんだもん。むり…」

きゅっと口を結んで長い耳をしょんぼり垂らしたナマエちゃん。ああ、もう可愛い食べてしまいたい。
本当になんでこんな草食動物のナマエちゃんがサバナクローに選ばれたのか分からない。みんなゴツい肉食動物が多いなか、小さくてふわふわしてるウサギの獣人が混ざってるなんて危なくて仕方がない。あの鏡、耳と尻尾ついてたら全部サバナクローに選んでるんじゃないかとすら思う。

「じゃあ、なんでオレは大丈夫なの?」
「ラギーくんはなんか同じものを感じる、から?」
「オレも一応、肉食動物の端くれなんで意識してほしいんスけど」

何も考えてないこのウサギに少しだけイラッとした。そしてお尻についた丸いふわふわした尻尾をすっと撫でる。びくんっと肩を揺らすと顔を真っ赤にさせてふるふると震え始めたナマエちゃん。ほら、尻尾なんて出して歩くからこうやってされるんスよ。

「ら、らぎ…」
「もうすぐ授業始まるから行くッスよ」

何かを言いかけたナマエちゃんを遮ると再び手を繋ぎ、移動教室に向かった。