ポーカーゲーム




※ネームレス

ここには似合わない子が来たなあって思った。こんなギャンブルする所に、随分とカジュアルな格好をしていたから。
うちの店はドレスコードとかは特に無いんだけど、来るお客サンはだいたいスーツだったりパーティードレスを着ている。

その女の子はかなりのチップを抱えオレの台に来た。正直、年齢とは似つかわしくない量のチップに驚く。
全財産とか?それともお金持ち?色んな想像をしてしまう。

「はい、いらっしゃい。ふふ、キミみたいな若い子あんまり来ないから新鮮かも。どのゲームにする?」
「これ、倍にできるゲームありますか?」

随分と真剣な声で彼女はそういった。事情は分かんないけど、とりあえず多額のお金が必要なことだけは理解できた。
オレはこの台でできるゲームを1つ1つ説明していく。そしてチップの増え方も。ひと通り説明したあと、彼女は大きく息を吸ってこう言った。

「…ポーカーで」
「オーケー。ポーカーね」

オレはトランプのカードを箱から取り出す。慣れた手付きでトランプをくり彼女に5枚、自分の手元に5枚裏向けて置いた。
さあて、この子の実力と勝負運を見させてもらおう。お手並み拝見。
目の前に置かれた5枚のトランプを手に取り考える彼女の顔を見るが表情は変わらない。

「どうする?手札、替える?」
「はい、全部替えます」

えっ、と声が出そうになった。まさか全部変えるなんて本気かこの子。
オレはトランプの配置や今どれがどこにあるか把握しているから、彼女の手札はだいたい分かっている。彼女の手札は今、ストレートになっているはずだ。
確かにうちのポーカーは強い役で勝つとチップの数は多くなるけど。
ふぅん、最初からそういうことしちゃうんだ。わりと勝負師なところあるな、と関心した。
だけどそうやすやすと勝てちゃったらこっちも商売なんてできないからね。

「はい、じゃあ5枚ね。チップ何枚かける?」
「じゃあこれ10枚で」

新しくカード5枚渡して彼女は10枚チップを賭けた。手札を替えずにいけば彼女の勝ちだったのになあと心の中で思った。
かく言うオレは自分の手札を2枚だけ替えた。ワンペアだったオレの手札はフルハウスに変わった。残念だけど1回目はオレの勝ちかな。
そしてお互いにカードを表へ向けると、全部変えた彼女はスリーカード、オレはフルハウスだった。

「残念〜!オレの勝ち、だね。どうする?もう一回する?」
「まだ続けます」

そう言って続けます、と言った彼女の手元にはまだまだ大量のチップが残っていた。
無事に増えるといいんだけど、ね。





「ちょっと、キミ。もうやめたほうがいいんじゃない?さっきからチップ賭けすぎててもうないでしょ?」

ゲームを繰り返して、どのくらい時間が経っただろうか。
彼女の手元にあった大量のチップはもう数枚しか残っていない。彼女が勝つときはあったけど、それも数回だけ。それ以外は結構ないい役が来てもチェンジをして負けていった。
後から気づいたけど、この子はロイヤルストレートフラッシュを出してチップ100倍にしようとしていたのかもしれない。

オレの制止も聞かずに数枚のチップでチャレンジしようとするが、賭ける最低枚数より少ないからゲームを始めることはできない。
さすがにルールだからね。

「じゃあ、私を賭ける」
「あー、そういうカンジ?」
「駄目ですか」

自分を賭けるなんて言い出すもんだから一瞬焦った。相当、彼女はお金に対して切羽詰まっているらしい。
なのに悲しみ、怒り、などの感情は一切出ていない。それが気になった。
あと、最初から思っていたけど彼女の清楚で純粋無垢な感じが割と好みだった。
本当はこういうことしちゃ駄目なんだけど、オレは彼女の提案を飲んだ。

「んー、だめじゃないんだけど…。ここだとギャラリーとか他のプレイヤーもいるし」

そう言って周りをキョロキョロ見回す。ガヤガヤと店内のBGMに合わせてギャンブルを楽しむ人たち。みんな己の事に精一杯で誰もオレらの事なんて見ていない。
オレはテーブルから体を乗り出して、テーブルを挟んだ向こう側に居る彼女にしか聞こえない声でこう言った。

「奥に、VIPルームあるからそっち行こうか。」




*




「で、ホントにいーの?自分なんか賭けちゃって。事情は分かんないけど、もっと自分大事にしなよ?」
「…お金、作らないと駄目なんです」

VIPルームの少しだけ豪華な台を挟んで彼女に最終確認をする。オレがトランプをくっている姿をただじっと見つめながら、お金が必要だ、彼女はそう言った。
自分を賭けたって、そんな簡単に上手くいくワケないのになあ。
オレはそっと横目で部屋の奥にあるカーテンを見た。あの裏にはキングサイズのベッドがある。まあ、所詮そういうコトをするため。
数分後には彼女はあのベッドの上で快楽に溺れていることだろう。

「まあ、そこまで言うならオレも止めないよ。…さぁて、本気出しますか」
「…え、さっきまで本気じゃなかったんですか?」
「当たり前じゃん〜!プレイヤーにも勝たせてあげないと商売にならないでしょ?キミにも何回も勝つチャンスあったのに、ことごとくスルーしちゃうんだもん。オレ、びっくりしちゃった。」

目を見開いてオレを見つめる彼女。本当に何も知らないで来た感じ。こういう世界のこと知らない彼女の純粋さをオレの手で汚したくなった。

「ナニ?今更、やめるなんて言わないよね?」
「も、もちろん!」
「そうこなくっちゃ!じゃあ、始めよっか。…Good luck to you.」





結果はオレの勝ちだった。
当たり前じゃん、オレはカード位置をだいたい把握してるんだから。何回か泣きの一回をお願いされてやったけど結果は一緒。

「ろ、ロイヤルストレートフラッシュ…。私のとき一回も出来なかったのに」

最後は極めつけに彼女が出したがっていたロイヤルストレートフラッシュを出した。その時の彼女の唖然とした表情は忘れられない。

「あーあ、キミの負けみたいだね。…んもう、そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しだよ。」
「もう、賭けるものがない」
「ええー、まだゲームする気だったの?もう諦めちゃったら?4回目だよこれ」
「でもっ」

これ以上話していたら、もう1ゲームする事になりそうだったからオレはテーブルから離れて彼女に近づく。
座っている椅子に手を回して覗き込む。至近距離に彼女の顔があり、シャンプーのいい香りがした。
こちらを向いてゲーム続行を願う彼女の顎を手で持って親指でふにふにと唇を触った。

「はいはい、もうキミは負けちゃったんだから。言い訳しないで、オレの言うことだけ聞いて?」
「あのっ、いや、でもっ、わたしっ……」

彼女はこういうのに慣れていないのか目がかなり泳いでいる。
なになに、この子こんな表情出来たんだ、ちょーかわいい。
手は申し訳程度の抵抗でオレの腕を制止させようとしていたので、空いてる手で繋いでやった。段々とオレもテンションが上がっていく。
最初あれだけ鉄仮面だった彼女がこうも動揺しているのが、グッときた。

「心配しないでいーよ。黙ってオレに任せておけば気持ち良くなるから」

そう言って柔らかい唇にキスを落とした。
ちゅっと可愛いリップ音がして顔を少し離すと目の前には茹で上がったタコのように真っ赤な彼女がいた。その表情に駆り立てられて、彼女を抱き抱え奥のベッドへと下ろす。
馬乗りになって見下ろすと、依然として赤くなった顔でこちらを見ようとしない。それですら可愛いと思ってしまうのは少しだけ彼女がタイプだからだろうか。

「オレ、キミのこと結構タイプだから優しくしてあげるね。一緒に気持ちよくなろうね。」


でろでろにしてあげよるよ。溶けるくらいに、ね。