きっかけは、


きっかけはもう思い出せない。
君のことを目で追い始めてからもう1年近く経つ。

毎朝、進学校の制服に身を包み、駅のホームの同じ場所に立って、同じ車両に乗って、同じ駅で降りて行く。
君のことで知っているのはそれだけ、名前も歳も友達のこともわからない。

そんな謎ばかりの君に惹かれてしまった。
暑さで捲ったシャツの袖、血管が浮き出ている筋肉質の腕、少しゴツゴツした男らしい手、全てが私を引きつける。


そんなある日、いつもの時間、場所に君がいなかった。
時間を変えたのだろうか、それとも違う車両に?そんな考えが頭をよぎる。
ホームにゆっくりと電車がやってきて、開くドアに合わせて人が溢れてくる。溢れる人を避けながらいつも通り電車に乗って参考書を取り出す。

ふと視界に君の姿を捉えた。閉まりそうなドアに勢いよく駆け込んでくる。
突然の出来事に思わず君を見つめてしまう。
いつもなら恥ずかしくて見つめられない君の顔をしっかりと捉える。
走ったせいか上気して赤くなった頬、荒い息を吐き出す口、少し色っぽくて目が離せなくなる。


私の視線に気づいた君が、私を見つめて悪戯っぽい目で笑う。

あぁ、そうだ。この笑顔をひと目見て君を見つめる毎日がはじまったのだ。もう一度笑うところがみたいと、そう思っていつも君を見ていた。
私なんかが届くわけない、そう思いながらも君の笑顔に惹かれていく。

また見せてくれるだろうか。




君の笑顔



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