策士の手中



茨くんに次のライブのことで相談があります、と呼び出されて、学園近くのカフェで打ち合わせ中。

やっぱりアイドルだけあって顔が整ってるなぁって見つめてしまう。眼鏡の位置を直す仕草とか、眼鏡フェチとしては正直堪らない。
もちろん真剣に打ち合わせはするけれど、茨くんの一挙手一投足を目で追ってしまう。こういう計画を立てている時の茨くんはいつもより生き生きとして見える。ステージの上と同じかそれ以上かも。
案も纏まってお会計をしようと思ったら私がお手洗いに行っている間に茨くんが支払ってくれていたみたい。お店を出てすぐに茨くんに支払おうと思ったのに、

「貴方みたいな素敵な女性とお茶出来たこと、大変光栄ですのでお代は結構です。どうぞお財布はしまってください」

茨くんは特技が誉め殺しなんて言うくらいだから、もちろんお世辞なんだろうけど。こんなに綺麗な顔で言われてしまうとちょっと動揺してしまう。

「もしかしてドキドキしました?自分みたいな最低野郎にときめいて頂けるなんて誠に光栄であります!」

茨くんは目敏く私の動揺を見抜いて、追い打ちをかける。

少しだけ、でも少しだけですから!

「打ち合わせ中も自分の方をチラチラ見ていましたよね。貴方の様な方に想って頂けるなんて恐悦至極!次は仕事以外でお会いしたいですね」

茨くんは焦りを隠せていない私の返答など気にも留めず、更に距離を詰めてくる。必死に取ろうとした距離は背後の壁にぶつかってあえなく消滅。ていうかチラチラ見てたのバレてる!

揶揄わないでください!普通の女の子なら勘違いしますよ!

「揶揄ってなどいません。勘違いして頂いてもいいんですよ?」

いつのまにか目と鼻の先にいた茨くんに耳元で囁かれ、見事私はノックダウン。


「なんて、冗談ですよ。これでも自分アイドルですし、スキャンダルの類いはNGなんで」

耳元でそう言うと、勝ち誇った様な笑みを浮かべながら私から離れた。

この先ずっと茨くんの掌で転がされるんだろうな…




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