アイドル


さとうは俺たちのプロデューサーで俺はアイドル。さとうが転校してきた時からそれは変わらない。初めの頃はほとんど素人で右も左もわからないはずなのに、革命を成し遂げようとする俺たちと一緒に頑張ってくれた。
実際俺たちはさとうのプロデュースのおかげでfineに勝つことができた。それからというものどこのユニットもさとうのプロデュースをこぞって受けたがる。さとうは頼まれたら断れないタイプだから色々な仕事を受けて、いつも忙しそうにしている。
忙しくても俺たちのライブやイベントのプロデュースを引き受けてくれるから少なからず特別な感情を持っていてくれているんじゃないかって思っていた。
ライブ中に客席で嬉しそうにペンライトを振ってくれていたのを見たことがある。ライブが終われば楽屋に来て感想や改善点なんかも言ってくれた。
突然抱きつく俺に、転校当初は戸惑っていたけど、最近は抱きしめ返してくれるから自分だけ特別なんだと思っていた。

でもさとうはプロデューサーで俺はアイドルだから。この気持ちを伝えてしまったらさとうを困らせてしまうだろう。今のままがいい。そうやって卒業まで今のままの関係を続けていたい。

放課後、部活の後に忘れ物を思い出して、教室へ向かう。
教室でさとうが1人で座っていた。携帯で何かを見ているようで俺には気付いていないみたいだった。
近づくと小さく嗚咽が漏れているのがわかった。既に再生を終えた端末にはこの前のライブの時の衣装の俺たちが写真のように映っていた。
どうして、俺たちのライブを見て泣いているの?ライブのときはキラキラした笑顔で見ていてくれたのに。
未だに俺に気付いていないさとうを後ろから抱きしめる。理由はわからないけど、衝動的に抱きしめてしまった。
驚いて肩を震わせたさとうはイヤホンを耳から外し、スバル君?と先程まで泣いていたことがわかるくらいの声で聞いてくる。

「そうだよ。さとうはどうして泣いているの?何か辛いことがあるなら教えてよ。俺たち友達でしょ。」

どうして泣くくらいのことを俺に相談してくれなかったのか、少し怒りが伝わってしまったかもしれない。

だって、スバル君はアイドルで私はプロデューサーだから。私とスバル君は本当はこんな距離に居ちゃいけないんだよ。

さとうは段々と声が細く小さくなっていきながらも答えてくれた。
もしかして似たようなことでお互い悩んでいたのかもしれない。だったら俺も言わなきゃ。

「俺はさとうと一緒にいたいと思っていたけどさとうを困らせるんじゃないかと思って口に出さなかった。でも今さとうが泣いているのをみて、ちゃんと伝えなきゃって思った」

一度さとうから離れて一つ前の椅子に座る。顔を覆っているさとうの手を握って真っ赤な顔と目をしたさとうを見つめる。

「目を逸らさないで、俺の目を見て欲しい」

目を逸らそうとするさとうにそう告げる。俺だって恥ずかしいけど、目を見て伝えたかった。

「俺、さとうが好きだよ。一生懸命プロデュースしてくれるところとか、ライブ中楽しそうに、俺たちを見てくれているところとか、挙げたらキリがないくらい好きなところがいっぱいある。でも1番好きなのはさとうの笑顔だよ。キラキラしてて大好き。いつでも笑っていて欲しい。」

さとうは更に顔を赤くさせ、隠すように俺の耳元に顔を寄せた。

私も、好き。

小さく、消えそうな声で呟いて、俺の手を振りほどいで教室から出て行ったしまった。

夢じゃないよね?



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