罪を喰らう プロローグ
 こんなにもこの道は暗かっただろうか。それとも恐怖心がそう感じさせるのか。
 鼓動が速まるのと一緒に歩く速度も速まり、いつのまにか走っていた。それでも後ろからついてくる足音は変わらず聞こえて、どうしよう、どうしようとそれだけを頭の中で繰り返す。
 明るい光に照らされて一瞬ほっとする。しかしそれは車のヘッドライトで、気付いた時には身が竦んで動けなくなっていた。
 甲高いスキール音がして目の前で車が止まると、ただ瞳を見開いて運転手が近寄ってくるのを見つめた。
「大丈夫ですか!?」
 ライトに照らされてキラキラと眩しく光る金髪が綺麗だった。顔もいやに整っている。後をつけられるなんて出来事も相俟って、酷く現実味が無い。
「......夢...?」
「へ?」
 自分と相手の素っ頓狂な声を聞いてはっとする。いくら優しい人でもこんなふざけたことを抜かせば、飛び出してんじゃねえと怒鳴るだろう。
「あ、いえ、すみません、急に飛び出して。あの、お怪我は無かったですか?」
「僕は大丈夫です。それよりあなたですよ。ぶつかってはいませんよね?足を捻ったりは?」
「大丈夫です。本当にすみませんでした。じゃ、じゃあ」
「あ、ちょっと!」
 背中に掛けられる言葉に、声まで良いのかよ、なんて一人ごちながら走り出す。マンションに辿り着くまで、もう足音が聞こえることは無かった。


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