現代パロ




「やっほー玄弥ぁ」


不死川玄弥の部屋の扉を躊躇なく開けて入ってきたのは、彼の幼馴染のミョウジナマエ。母親同士の仲がよく、家が真裏ということもあり、もう10年以上の付き合いである。


「おい勝手に入ってくんなよ馬鹿ッ! 」
「そんな怒らなくてもいいじゃん」
「怒るわ普通に! 」


玄弥は、まったくと溜息をつきながら読みかけの少年漫画を置くと「なんだよ」とナマエに聞いた。するとナマエ。


「見てみて! 」


と、急にTシャツを脱ぎ出した。突然の肌色に仰天する玄弥。思いっきり彼女を視線から外すと「お前何考えてんだよ! 」と声を荒げる。


「もう玄弥、水着だってばー」
「はァ!? 」


布が擦れる音がして、ナマエがデニムまで脱いでいるのだと気づいた玄弥は頭を抱えたい思いだった。


「今年こそこの水着でさね君に女性として見てもらう予定なの! 」


さね君。不死川家長男であり、ナマエと玄弥が通う高校の数学教師の実弥のことである。ナマエは幼い頃から実弥が大好きであった。しかし、弟である玄弥と同い歳で、その上今や教え子であるナマエが恋愛対象になることはなかった。実弥にはいつも妹のような存在だと言われている。
そこでナマエが少しでも実弥に女性として意識してもらおうと考えたのが、水着でアピールするという策。


「ねえこっち見てよ玄弥」
「なんでだよ! 」
「さね君に見てもらう前に男子の意見を聞きたいのさ」


ねえねえ、と背中を揺すってくるナマエ。一体何歳のつもりなのだと玄弥は頭を痛める。確かに彼女とは小さい頃は風呂に一緒に入った仲だが、もう自分たちは16歳だ。思春期真っ只中の男子に、この状況で動揺するなと言う方が無理である。


「……お前なァ、男の部屋でそんな格好して危機感無さすぎなんだよ」


遠回しに注意する玄弥。しかし当の本人はその意味に少し間を置いてから気づくと、あははと呑気に笑う。


「だって玄弥だもん」


つまり、相手が玄弥であるから何も起こりようがない。そういう意味だ。ぷつん。玄弥の中で切れないように耐えていたものが切れてしまう。振り返って彼女の手首を掴んだ。


「どうなっても知らねえからな」
「えっ」


その時。また無許可で開く扉。仕事から帰って来た兄の実弥だった。


「おいナマエ、今日はウチで晩飯食ってくのか…………悪ィ」


水着姿の幼馴染の手を掴む弟。実弥は何か勘違いをして気不味そうに扉を閉めた。


「兄ちゃん違うから! 待ってくれって!? 」


玄弥が慌てて部屋を飛び出していく。1人呆けるナマエ。しばらくしてようやく思考が追いついた彼女の顔が真っ赤に染まる。


「……えー」


まだ受け入れ難い感情。途端に恥ずかしくなって、無造作に脱ぎ捨てた服に袖を通した。




ロマンスの予感
(……あり得ないあり得ない)
2020/06/21