一途に好きだという想いも、長く続けば段々拗れていくもので。好きだと思う度に胸が締め付けられるように苦しくて、愛おしさで胸がいっぱいになる。屈託ない綺麗で可愛い笑顔や、口をギュッとへの字に曲げ結んでムッとしている表情や、頬を熟れた林檎のように赤く染めて恥じらってる姿とか、その他可愛いところ挙げればキリなんてないんだけど。なんで彼女の全てを自分が独り占めできないのかと暫く思い悩んでしまう位には重症である。

岩ちゃんやマッキーやまっつんは告って付き合えば良いじゃんって簡単に言ってくれるけど、そんな気軽に付き合えるのなら俺だってこんな拗らせ方してない。難攻不落な後輩マネージャー名前ちゃんが手強すぎて打つ手が段々なくなってきてる現状が若干つらい。違う女の子を好きになればラクな話なんだろうけど、彼女が俺の心を掴んで離さないのが悪いんだ。


「あー無理、名前ちゃん可愛すぎ無理」


そうぼやきながら、制服からジャージに着替えようとYシャツのボタンをひとつずつ外す度にため息が出る。学年が違うから名前ちゃんとは概ね部活中くらいしか顔を合わせる事ができないんだけど、さっき部室に来る前に借りていた本を返しに図書室に行こうといつも通らない廊下を通れば、偶然名前ちゃんとエンカウント。俺と会った事に少し驚いたのか名前ちゃんは目を少し見開き丸くさせ口を少し開けていて、少し間を空けてからハッと慌てて挨拶をしてきた。ちょっと驚いた顔なんて初めて見たもんだから、その時の彼女の表情が堪らなく可愛くて忘れられなくて、その名前ちゃんの事ばかり考えていたら俺は手に持ってた本の事なんてすっかり忘れて、習性の如くいつの間にか部室へ足を運んでしまっていた。


「今日はえらく拗らせてんな」
「ねぇ聞いてよマッキー」
「それ長い?」
「短い」
「お前の短いはなげーんだよ」


聞かないからな、とでもいうように隣にいたマッキーがロッカーを閉めて離れようとするもんだから、脱ぎかけの制服のスラックスがずり落ちてパンツ一丁姿になってしまわないよう左手で抑えながら、空いている右手で彼のジャージの端を慌てて引っ張って引き止める。


「ねぇ聞いてってば!」
「離せパワーゴリラ!ジャージ伸びんだろ!」
「この前マッキーの話聞いてあげたじゃん!だから俺の話も聞いてよ!」
「そんな情けねえカッコで言われても嫌だわ!必死か!」
「ちょっとで済むから!」
「後にしろよ、後に!」


ジャージを引っ張りワーワー言い合いながら、数分マッキーと攻防を繰り広げていたら部室のドアがバンッと音が鳴るくらい勢いよく開いた。何だ?と思ってドアの方を見ればこめかみに青筋を立てた岩ちゃんがバレーボール片手に持って仁王立ちしていた。あ、これ怒られるやつ。


「おい、いま何分だと思ってんだクソ川!主将のオメーが来ねーと部活が始まんねぇんだよ!」


案の定怒られたと思っていれば、岩ちゃんは持っていたボールをスパイクよろしくの勢いでこっちに向けて投げてきた。マッキーのジャージから手を離し、2人でひょいと躱して避ければ盛大な舌打ちをされた。足元に転がってきたボールを岩ちゃんに投げ渡し、当たらなくて残念でした〜と言えばまた舌打ちをされた。どうやら今日の岩ちゃんはご機嫌ナナメらしい。


「名字が及川いない!遅い!ってキレてたぞ」
「え、うっそ」
「はよ着替えて来い!パンイチクソ川」
「ちょっと岩ちゃん悪口は良くない!」


さっきボール避けた事でスラックスが足首まで下がり、足元がおぼつかない俺に向けてボールを投げつけてきた岩ちゃんはマッキーと一緒に部室を出て行った。名前ちゃんが俺がいないのに気づいて怒ってるというだけで心が弾んで嬉しくなる俺はなんて単純な男なんだろうか。ボールがぶつかった脇腹を摩りながら急いでジャージを着込み、体育館に走る。名前ちゃんまであと少し。










頭の中は彼女でいっぱい





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