部室に着くなり汗で湿っているTシャツを脱ぎ捨て、ロッカーに入れていたデオドラントシートで汗を拭き取る。これだけじゃ汗臭さが消えない気がして、及川が持ってる香りが付いたスプレーを彼のロッカーを勝手に開けて拝借し、体に振りかけた。

メントールのせいかひんやりと冷たくなった気がして、部活で火照った体には心地が良い。隣でスプレー使うなら一言声かけてよ!とかなんとか喚いている及川に対してテキトーに謝り、急いで制服の袖に腕を通してYシャツのボタンを掛け違えないよう慎重にひとつひとつ留める。

最後にネクタイを締めれば着替えは終りだというのに上手く結べてない気がして、何回も解いては結び方を変えてみてを繰り返す。結局どの結び方もイマイチにしか思えず、変なくらいならネクタイしていない方がマシか……とネクタイを結ぶ事を諦め無造作にブレザーのポケットに突っ込んだ。

ロッカーの内扉についてる鏡で見ながら、手にワックスを少量付けて手櫛で髪先をちょいと整え、変じゃないか?と両手を広げて自分の格好を部室にいる奴らに見てもらう。


「マッキー気合入ってんね、俺のスプレー勝手に使うくらいには!」
「しつけぇな、謝っただろ」
「まぁ良いんじゃない?かっこいいかっこいい」
「イケメンイケメン」
「松川と岩泉はテキトーに流さないで!」


こちらを見ずに着替えてる2人に向かってタカヒロくん悲しいと泣き真似をすれば、早く帰れよと冷たくあしらわれてしまった。いつもはくだらない男同士の会話をしながらゆっくり着替えてラーメンでも食いに行くか、なんて話してる頃合いなのだが今日の俺は違う。ちょっと良いなと思ってた奴に「一緒に帰んねぇ?」とそれとなーく聞いてみたらまさかのOKを貰えて、部活終わり一緒に帰る事になったのだ。

男は単純なモンで、それだけでコイツ俺にちょっと気があるんじゃね?なんて思ってしまう。


「ほらマッキー、早く行かないと待たせてるかもよ」
「やっべ!じゃあまた明日の朝練でな!」


まだ部室にいる奴らに手を振り、急いで部室を出る。後ろから頑張れよーなんて声が複数聞こえてきて、アイツら俺の応援してくれんだ……と嬉しくて思わず顔が緩む。

彼女との待ち合わせは門の前。整えた制服がぐちゃぐちゃにならない程度の走りで駆けて行けば、校門にもたれかかってスマホを触ってる人影が見えた。


「あっ、花巻お疲れ様」


声をかける前に俺に気付いた彼女は、ふわりと優しく笑顔でそう言った。そんな彼女に心臓がドキドキと痛いくらいに脈打って、俺はかける言葉も出ず、おぅ……とちょっとぶっきらぼうに答えることしかできなかった。ちょっと良いな、からすっげぇ良いな付き合いてぇなんて思ってしまって、ホント単純だな俺!と心の中でツッコミを入れる。何か言わなくちゃ、と口を開ければ彼女の方が再び口を開くのが早くて開けた口をすぐ閉じた。


「花巻今日の部活頑張ったって事で、これあげる」


はい、と名字から差し出されたのはコンビニの袋で、受け取って中を見れば俺の大好きなシュークリームが入っていた。


「えっ、名字お前俺がシュークリーム好きって知っててコレ買ったの?」
「うん、知ってて買った」


嬉しい?と今度は無邪気な顔で笑うもんだから、俺は嬉しさのあまりニヤける顔を手で覆って隠した。もらったシュークリームはまだ冷たくて、さっき買いに行ったってことが聞かなくてもわかる。校内でただ待ってれば良いだけなのに、わざわざ部活頑張ったからなんてコンビニにシュークリーム買いに行ったという、その名字の行動と言動に、言葉にならない嬉しさが込み上げてきて俺は「あーーー……」と情けない声しか出なかった。こんなんズルいだろ、余計好きになる。


「……すんげぇ嬉しい」
「なら良かった」
「お礼と言っちゃなんだが、帰り道のコンビニでなんか奢ってやる」
「やった、私からあげクン食べたい!」


学校から離れて帰路にあるコンビニへ向かう途中「レギュラーにしようかな、チーズの方が良いかな?」なんて言葉にしながら悩む姿すら可愛くて、名字の隣を歩く俺は幸せの溜息しか出なかった。










男は単純





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