少し身を屈めて頭を撫でると名字は俺の手を躱し、髪型崩れるからやめてなんて少々不満気な声で言う。

けどそれとは反対に顔を緩ませ嬉し恥ずかしそうにはにかむ彼女が可愛くて、にやけ笑いそうになる口元を抑えつつゴメンねと手を彼女から遠ざける。

途端にえっ?とポツリ言葉を漏らし、何で手を離すの?と寂しそうな瞳でこっちを見てくるのがまた可愛くて。俺の中の加虐心を煽るんじゃないと口には出さず心の中で1人ごちる。


「なに、名字俺に撫でられるの嫌なんじゃないの?」
「そ、そう!折角可愛く髪の毛セットできたんだからやめてよね!」


触り心地が良さそうな髪を手櫛で整えながら名字は俺に虚勢を張った。

ここでまた頭を撫でれば、手を振りほどいてくるのが名字で。俺はこれ以上触れませんよ、というのを見せるために両手を白い制服のブレザーに突っ込んだ。更に寂しそうな顔をする名字が何とも可愛くて、また緩みそうになる口元にしっかり力を入れ形状を保たせる。

彼女の悪癖は俺に対しての虚勢だ。

本当は俺に触れられて堪らなく嬉しいくせに、ついつい言葉や動きで俺に見栄を張るのだ。そして自分で見栄を張った癖に寂しそうにする。

好きな相手に好きと悟られないようにとその行動をしているのだろうが、周りからはもろバレで、当事者である俺にですらバレバレである。

彼女が俺に対して他の男子とは違う好意を持ってる事は、彼女が俺を意識し始めたであろう頃から知っていて。まあ、それを利用して可愛い名字を堪能している俺もどうなんだ?と思うが、今のこの関係性が俺の外見とは似合わず、甘くどこか酸っぱい青春を孕んでいて心地よく楽しい。

言ってしまえば俺も名字のことが好きで、所謂両片思い状態だ。


「なぁ、名字」


ひとつ声をかけただけで嬉しそうな表情に戻る彼女に胸が少し熱くなり、俺もその表情見れるだけで嬉しいんだよなぁなんて、少しらしくもない事を思う。

告白をすればきっとすぐさまオーケーをもらえるだろうし、お付き合いを始めるのなんて両片思いをしているんだから簡単だろう。けど、それまでの過程を楽しむのも青春のひとつで、俺は付き合った後よりそれまでの過程を楽しむ派である。

意地の悪い俺を好きになった名字が悪いんだよ?と心の中で呟き、ポッケに入れていた右手を出してまた彼女の頭を撫でた。










過程が欲しい





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