Bookso beautiful yet terrific.

 いつか。なんぞ来なければいい。そんなことを思っていると知ったら、彼は呆れるだろう。
 寒さに肩を震わせて瞼を開けるといつのまにか本を読みながら眠ってしまったらしい。欠伸を噛み殺しながら突っ伏していたテーブルの上から顔を上げるとずるりと肩から何かが落ちて滑り落ちる。見覚えのある上着にハッとして私は慌ててそれを拾い上げる。室内を見回すとこの部屋は私の私室なので当然彼の姿はなかった。
 ぎゅっと彼の上着を抱きしめる。いつも腰に巻いている上着のくせに、身形に気を遣う彼らしくあまりきつくない香りのコロンが鼻を擽った。

「優しいのか、厳しいのか。よく分からないなあ」

悪態をついても私の声にはずいぶんと寂しさが滲んでいた。
 俯きそうになる顔を上げてから腕の中にある彼の上着を丁寧に畳んでテーブルの上に置く。もう少しだけ手元に置いておきたいというのは私のわがままだ。


−−−−−−−−−−


 用事があって彼女の部屋を訪ねれば、彼女は不用心にも扉の鍵を開けっ放しのままテーブルに突っ伏して眠っていた。すぐそばには本が置いてあるので、どうせ読んでいる途中に寝てしまったのだろう。
 俺は眠っている彼女に手を伸ばそうとしてやめる。いつか。その時が来れば彼女は俺以外の人間と生きていくのだろう。だから、彼女に触れていいのは俺の役目ではない。
 一度動きを止めた手を動かして腰に巻いた上着を解き、彼女の肩にかけてやる。

「いつかなんて来なければいい。俺がそう思ってるなんて知ったら、おまえ呆れるよな」

彼女からの返事はない。言ってから、俺は太くて深い息を吐いた。
 早く全てを終わらせて俺をただの銃に戻して。そして。どうせ消えるなら、この感情も葬り去ってくれ。

2022.12.01