
Bookso beautiful yet terrific.
何の因果か分からないが、まだまだ駆け出しのメイクアップアーティストだった私の人生が突然急展開を迎えた。
「アンタ。アタシ専属のメイクアップアーティストになりなさい。このアタシが、びしばしと鍛えてあげる」
と、あの世界的有名な俳優ヴィル・シェーンハイトのお眼鏡にかかったのである。ちなみに、当時ヴィルくんはまだ14歳。私が鍛えられるの?この子に?というのが本音だった。
ヴィルくんの専属メイクアップアーティストになってから4年の歳月が流れた。ヴィルくんは宣言通り、びしばしと意見を言っては私の腕を磨いてくれている。厳しい言葉が多いけど、でも、ヴィルくんを唸らせる身形が完成した時はとても褒めてくれる。なんだかんだ言っても、ヴィルくんは優しい人だなあと認識しつつあった。そんなある日のことだった。
「今日は雑誌のインタビューがあるの。アタシもスケジュールが詰まってるから記者には学園に直接来てもらうようにしたわ。だから悪いけど、それまでにアンタも学園に来てアタシのヘアメイクを終えなさい。それから、見栄えのいい衣装も用意すること。いいわね?」
前触れもなく私に連絡してきたヴィルくんは一方的に言ってのけては電話を切った。え?私の予定は?というツッコミをしたところでどうせヴィルくんは鼻で笑って相手にもしてくれないけど。
というわけで、私はヴィルくんに指定された時間にナイトレイブンカレッジにやって来た。受付で手続きを済ませてから入館証の入ったカードケースを首から下げる。さて、何処に向かえばいいのやらと溜息を吐いた時だった。
「見つけたよ!ムシュー!」
音もなく現れた金髪の男子生徒が私の正面に立ってはムシューと呼んでくる。いや、見つけたと言われてもあなた誰ですか状態なんですけど。
「あの?」
「私としたことが!挨拶が遅れて申し訳ない。私はルーク・ハント。ヴィルの代わりに君を迎えに来たんだ」
ぱちんとウィンクする彼に、私はお礼と挨拶を返しつつも視線を逸らしたくなる。この人、なんかすっごくキラキラしてるじゃん。職業柄陽キャと間違われるけど、実際は陰キャの拙者には目がつらすぎますな。
「早速だけど我がポムフィオーレ寮へ行こう。もうすぐ寮長会議も終わるから毒の君もそこへ向かうはずさ」
「ろ、ろあ?」
ロア・ドゥ・ポアゾンと聞き慣れない単語に首を傾げるが、おそらく、話の内容からしてヴィルくんのことを示しているのだろう。
ルークくんはポムフィオーレ寮に向かう道中、色んなことを話してくれた。教室の窓から見えた体力育成の授業を受けるヴィルはとても美しかった!昼食の時、スープをスプーンで口に運ぶ姿は絵画のようだ!校内で喧嘩しそうになった寮生達を一喝する姿はまさに美しき女王のように威厳に溢れていたよ!などなど。その話ぶりはまるでミュージカルを見ているようだった。内容は全てヴィルくんに関することばかりだったけど。
「さあ!ここが我がポムフィオーレ寮の談話室だよ。ヴィルはまだ来ていないようだね。少しの間、待ってておくれ」
広大なナイトレイブンカレッジの敷地内を歩き、ようやく辿り着いた目的地に私は内心ホッとしつつルークくんに促されるまま談話室の一つの椅子に座る。すると、颯爽と動いたルークくんがすかさずティーセットを用意し、流れるような仕草で紅茶をサーブしてくれた。この子、本当に高校生?何処かの上流階級に仕える執事ですか?と思う。
「案内していただきありがとうございます。助かりました」
とりあえず礼を述べて、また、紅茶を淹れてくれたことにも礼をしてティーカップに口をつける。そんな私の様子をニコニコと笑みを浮かべて見ていたルークくんはすっと私の向かい側の席に座った。
「それにしても、こうしてヴィル専属のメイクアップアーティストにお会いできて光栄だよ。先日発売された写真集のメイクも衣装も、見事にヴィルの魅力を引き出していたね。ヴィルのあまりの美しさに涙が溢れたよ」
そう熱く語るルークくんの姿に私は瞬きを繰り返す。一方、ルークくんは私の反応なんぞ気にせずヴィルくんの魅力について語り続けている。その姿に、私は頬を緩めながらルークくんの話に耳を傾けた。
ヴィルくん。ナイトレイブンカレッジに入学して良い友達に巡り会えたんだね。と思いながら。
2022.12.01