Bookso beautiful yet terrific.

 オーナーに渡されたメモを照らし合わせながら私はカタログを片手に麓の街をまわる。パティスリークローバーのケーキの注文用紙を回収しながら、カタログに掲載しているケーキの欄に注文した個数を記入してはそのカタログを置いていくを何軒か繰り返していた。というのも、クローバーさん家の洋菓子店は基本的に店でしか販売していないのだけど、ツイステッドワンダーランド中に贔屓にしてくれているお客様がたくさんいて、距離が遠いせいでなかなかお店には来店できない常連のお客様のためにクリスマスシーズンはこうして足を伸ばして特別に注文を承っているということだ。

「よし!麓の街の分はこれで全部だね」

 お客様一覧表に示された名前と住所を確認してから私はその辺に空いているベンチに座り、一息つく。

「失礼。隣、よろしいですか?」

 私がベンチに腰掛けてすぐに、背の高い男性が私の隣を示し声をかけてくる。思わず周りのベンチを見るが、残念ながらクリスマスに合わせて買い出しに出ている人々が多いせいかベンチは埋まっていた。

「どうぞ」

そう言いながら注文用紙とカタログの入った大きなトートバッグを自分の方に寄せる。それを見た彼は愛想の良い微笑みを浮かべながら礼を述べてベンチに腰掛ける。一方、私はコートのポケットの中からスマホを取り出して画面を開く。オーナーに、麓の街の注文分を終えたことを連絡しようとしたら、オーナーの息子さんであるトレイくんからメッセージを受信していた。
 そろそろ麓の街の注文分は終わった頃か?毎年、大変な役目をやらせて悪いな。俺も、ウィンターホリデーに帰省したら手伝うからそれまで頑張ってくれ。
 トレイくんからの優しい気遣いに思わず頬が緩む。私の方が年上で立派な社会人なのに、トレイくんの方がまるで面倒見の良い上司みたいだ。

「あの。不躾に申し訳ありません。カタログ、見えてしまって。僕にも、そちらを見させていただいてもよろしいですか?」

 突然かけられた言葉に私がスマホの画面から顔を上げて隣を見ると、彼は眉を下げて曖昧に微笑んでみせた。私は思わず困惑しつつもトートバッグの中に視線を向ける。そんな私の態度に彼は、実はと続けた。

「僕の兄弟と幼馴染がクリスマスにケーキを食べたがっているのですが、今年は何処の菓子店で予約を入れようか悩んでいたところなんです。突然のお願いにあなたがお困りになるのは無理もありません。ですので、差し支えなければ」

雰囲気的に悪い人ではなさそうだけど。と思いつつ、新規のお客様を開拓するのも悪くないかと考えて私はトートバッグの中からカタログと注文用紙を彼に手渡した。

「もし、ご注文をされるようでしたらそこに記載してある電話番号にご連絡ください。注文用紙を取りに伺いますので」

「わざわざ来ていただけるのですか?」

「オーナーから、お客様からの大切なご依頼に万が一があってはいけないからと直接出向き確認するよう仰せつかっているんです」

「なるほど。とても素敵なオーナーですね」

「はい。オーナーだけではなく、みなさん素敵なご家族です」

自然と笑みが溢れる。彼は私の表情をじっと見てから頬を緩ませる。それから私から受け取ったカタログと注文用紙を大切そうに抱きしめるように持ったのだった。


 その後、カタログと注文用紙を手に入れたジェイドは急ぎ足でナイトレイブンカレッジに戻り、まっすぐにオクタヴィネル寮にあるモストロ・ラウンジへ向かう。VIPルームで疲れた顔でソファでぐてーんと休む片割れと幼馴染に例の物を誇らしげに広げてみせた。

「アズール!フロイド!やりました。ついに手に入れましたよ。あのトレイさん家のクリスマスケーキのカタログをこの手に」

興奮したように話すジェイドの言葉にアズールとフロイドがガバッと起きては反応し、カタログに視線を向ける。確かに、カタログには、パティスリークローバーの文字と薔薇王国にある住所が示されていた。

「あのトレイさん家のクリスマスケーキが食べられるだなんて。これは、チャンスです!このモストロ・ラウンジの未来(売り上げ)がかかっています!全てして、味見しなければ」

「うわ〜。さっすがアズールじゃん」

アズールの眼鏡の奥の双眸がぎらつく。フロイドはアズールのその姿を見て若干引いている。ジェイドはそんな二人の姿を見ては楽しそうに頬を緩ませるのだった。

2022.12.10