
Bookso beautiful yet terrific.
クラスメイトの女子達に聞かれた、名前ちゃんは好きな人っている?という言葉に私は数回瞬きをする。
「いないよ」
「え!?じゃあ、姫路くんと付き合ってるの?」
次に言われた言葉に思わず面食らう。いや、本当、どうしてそんな話になったのだろうか。というか、この質問はよくされる。
「姫路はただの幼馴染だよ。よく聞かれるんだけど、本当に不思議」
私の疑問に女子達が一斉に瞬きを繰り返す。それから周りをちらりと見てから私の耳に口を寄せて小声で言った。
「姫路くん。南校始まって以来の秀才って呼ばれるけど先生すら何考えてるか分からないらしいじゃん。それに姫路くんの言葉って辛辣だし正直怖いんだよね。でも、名前ちゃんは普通に話してるし。だから、名前ちゃんと姫路くんって付き合ってるのかな?と思う人は結構いるよ」
えー、と思いながら眉を寄せる。姫路は表面上は怖がられているけど内心はめっちゃくちゃフレンドリーだ。口下手で人見知りを拗らせすぎたせいで本心は携帯電話やら書面やらで文章で表現してもらわなければ分かりづらいのは確かだけど。それを言ったところで周りに信じてもらえるとは思えないが。
「名字」
すると、教室の入口で噂の姫路が私を呼んだ。姫路の鋭い眼力を眼鏡越しに向けられたクラスメイト一同があからさまに視線を逸らす。私は小さく息を吐いてから女子達に別れを告げて姫路の元へ行く。姫路は私が来たことを確認してから廊下を歩き出した。
「何を話していた?」
訳。俺のこと話してたの?めっちゃ照れるじゃんきゃー!である。
私は姫路の隣を歩きながら苦笑いを浮かべた。
「姫路と私が付き合ってるという噂」
ぴたりと姫路が足を止めてじろりと私を見下ろす。姫路の眉間に深い皺を刻み込んだ。
訳。何その噂!?恥ずかしい!!!名前ちゃんとそんなただれた関係と思われてるなんてドキドキしちゃう!である。
ただれたとは一言も言ってないがツッコミを入れずにスルー。私は姫路の視線を特に気にせずスタスタと廊下を進んで行く。姫路は歩みを止めない私を再び動かした長い足でずんずんと追いついてみせた。
「そんなことより、生徒会絡みで私を呼び出したのでしょう?」
「そうだ。急ぐぞ」
訳。ゆっくりでいいよ!わざわざ呼び出しちゃってごめんね!である。
こうやって会話すると本当分かりづらい。まあでも、小学校からの付き合いだから慣れって恐ろしい。
「舞苑から連絡があった。休みに入れば何処か出かける気らしいぞ」
訳。誘人から連絡あってね、冬休みにみんなでお出かけしたんだって。名前ちゃんは何処に行きたい?である。
「それじゃあ、いつにしようか。あとで予定決めようね」
私の言葉に、姫路の表情がほんの少しだけ和らいだ。これは了承したと受け取っていいだろう。姫路の幼馴染をやるのも大変だなあと思った。
冬休みに入った。姫路からざっくり聞いた話だと、我が幼馴染達はクリスマスパーティーや年末年始のカウントダウンに初詣、それだけではなく餃子パーティーしたり鍋パーティーしたりタコ焼きパーティーしたり、それはそれはたくさんのスケジュールを組み立ててくれたようだ。というか、ほぼ家族かな?くらい幼馴染と過ごす私にこれじゃあ彼氏なんぞ作る暇はなさそうです。
そんなこんなで今日は数あるスケジュールの一つである、姫路ん家で餃子パーティーの買い出しのために私は幼馴染達と駅前で待ち合わせしていた。
「名前ちゃん待った?」
「大して待ってないよ。私も今来たところだし」
「残念だなあ。この無礼者!って平手打ちしてくれるチャンスだったのに」
「やりません」
口では残念と言いながらその表情は全くそうでもなさそうな舞苑の姿に私は小さく息を吐く。舞苑も大層困った幼馴染だ。東校に通っているおかげでたまに困る程度で済んではいるが。
「俺、迷子になっちゃうかもしれないから首輪つけるね。はい、名前ちゃん」
「はいってリード渡されても誰が受け取るか」
渋々首輪とリードを鞄の中にしまう舞苑に呆れつつも私はハタと気づく。いつもは待ち合わせ15分前には到着している姫路の姿がまだなかった。私は駅に設置している時計と、辺りを見回しながら舞苑に声をかける。
「姫路。もうすぐ約束の時間なのにどうしたのかなあ。何かあったのかも」
「姫路なら来ないよ」
間髪入れずに返された言葉に私はすぐに舞苑を見る。舞苑は特になんてことないように続けた。
「只今の姫路は餃子の皮を作って絶賛留守番中」
「え!?一人で!?」
「こだわりの小麦粉を見つけたからノリで五袋買ったって言ってたよ」
「まさかそれ全部餃子の皮にする気じゃないよね!?」
「いいじゃん。たくさん食べれるし」
「それにしても限度があるよ」
あの秀才何考えてるの?と思うが、育ち盛りの男子高校生が二人もいればそれくらいの量があってもいいのかなあと自分を納得させることにした。
「そういうことなら、早く買い出しに行って姫路を手伝わないと」
私がそう言いながら舞苑の背中をトンと軽く叩くと舞苑は頷く。それから私達は駅前から程近いスーパーに向かって並んで歩き出した。
挽肉やニラなどの餃子の材料の他にスナック菓子やらジュースをたくさん買い込んでスーパーを出る。舞苑は軽い物は私に、重い物は自分で持ってくれる。舞苑曰く、重たい荷物を両手で持って腕をぷるぷる震わせるのが快感らしい。勿論、舞苑の奇行に触れてはいけない。
街中何処もかしこも着飾った街路樹で溢れていた。冬の間、街はイルミネーションのおかげでいつもより特別な雰囲気に包まれていく。寒いのは嫌だけど、お洒落なコートやブーツで出かけるのは好き。
「そういえば」
不意に、舞苑が口を開く。私は着飾った街並みに目を奪われたまま相槌を打つ。舞苑は歩きながら続けた。
「姫路から聞いた。南校では姫路と名前ちゃんが付き合ってるという噂が立ってるらしいね」
「ああ、それか。生徒会もあるから姫路と行動すること多いしね。仕方がないかなあ」
「ちゃんと否定してる?」
「してはいるけど。なかなか噂って消えないみたいで」
私が軽く笑うと舞苑が足を止める。舞苑が私に向き直るので、私も舞苑にならって足を止めた。
「名前ちゃんはさ、姫路のことが好きなの?」
「好きじゃなければ一緒にいないよ」
「姫路と付き合いたいの?」
「そういうわけでは」
「それじゃあ、俺と名前ちゃんが付き合ってるという噂が流れたらどうする?」
そう言ってのける舞苑の表情はふざけているわけではなく真剣なものだった。私は数回瞬きしてから口を引き結ぶ。舞苑も姫路も私にとって幼馴染であり大事な友達だ。付き合うかどうかと問われても困る。
「この際だから、はっきり言うよ」
舞苑が口を開く。だけど、声に出す前に遠くから舞苑を呼ぶ声がいくつも聞こえたせいで舞苑の口は一度閉じてしまう。
「舞苑先輩!これから西校の奴等と喧嘩に行くんすけど、どうですか?って、あれ!?もしかして彼女!?というか、え?名字先輩!?」
真っ先に声をかけて走り寄って来た寒川くんに対し舞苑は表情を変えずに振り向く。私は過去に南校から東校に転校した寒川くんとの思わぬ再会に頬を緩めた。
「寒川くん、久しぶり。港ちゃんと舞苑から聞いたよ。今は東校の番長なんだってね。これからも頑張って。応援してる」
「え、あ。は、はい!!!」
戸惑いつつ元気よく返事する寒川くんの後ろで東校生達がひそひそと話している。
「南校生なのに番長って聞いても動揺しないのすげえや」
「流石舞苑さんの女だな」
なんだか誤解を招いてるみたいなので私は苦笑いを浮かべつつ口を開こうとした瞬間、舞苑が東校生達に向かってぴしゃりと言い放った。
「悪いけど先客がいるし俺はパス。それと、一緒にいるのは彼女じゃなくてただの幼馴染だから勘違いしないでね」
あまりにもはっきりとした物言いに私を始め東校生達も口を閉じずにはいられなかった。少しの沈黙の後、舞苑はああと再び東校生達に声をかけた。
「寒川達も餃子パーティーするからおいで。西校との喧嘩は別の日にしておけばいいよ」
喧嘩はまた後日って有りなのだろうか。不良の世界はよく分からない。
「舞苑先輩が言うなら!お邪魔しまーす!よし!おまえら!早くみんなに連絡しようぜ!喧嘩は中止!今日は餃子パーティーだ!」
寒川くんの掛け声を聞いた瞬間、東校生達がおおお!!!と雄叫びを上げる。この寒い中元気だなあと見てて思う。そんな騒がしい東校生達を余所に舞苑が私に向き直る。
「そういうわけだから、もう一度スーパーに戻って材料買い足さないと。姫路にも人数増えたって連絡入れないとね」
「そもそも姫路ん家でパーティーするのに勝手に誘っちゃうんだから」
「俺のこと、叱ってくれる?」
「餃子の皮も追加して作らないとすぐ終わっちゃうし足りないじゃん。小麦粉も買い足さないと」
「無視?そういう冷たい名前ちゃん素敵」
「さーて。早く動いてちょうだい」
東校生達が各々動く中、私もスーパーに向かって踵を返す。
「名前ちゃん」
不意に、舞苑に名前を呼ばれて振り向くと舞苑はいつものように表情を変えないままさらりと続けた。
「今はまだ、ただの幼馴染でいいよ。だけど、もしも名前ちゃんが姫路を選ぶなら」
舞苑がすっと私に近づく。舞苑は私と目をしっかり合わせてから頬を緩ませて言う。
「正々堂々と姫路と勝負して、名前ちゃんの恋人の座を手に入れてみせるよ」
一方的に言い切った舞苑がスーパーに向かって先に歩き出してしまう。
残された私はぱちくりと瞬きしてから、思いっきり眉を寄せてそれはそれは大きな溜息を吐いたのだった。
2022.12.28
冬|救済措置様
(冬企画のため救済措置様では2月公開になります)