Bookso beautiful yet terrific.

 恭遠とラッセルは困惑した。目の前にいる数多の貴銃士を束ねるマスターである少女は鬼気迫る表情を浮かべながら深々と頭を下げている。

「私のわがままだと自覚しております。ですが、今年は!!!今年こそは!!!今年のカウントダウンは日本に行きたいんです!!!お願いします!!!」

普段冷静に物事を判断し最善の行動を選ぶ彼女にしてはあまりにも珍しい姿だった。何振り構わずの彼女の様子に恭遠とラッセルは顔を見合わせる。

「恭遠審議官は日本の地理にお詳しいですか?」

「俺も外国暮らしが長いから何とも言えないけど。全く知らないわけではないが」

うーんと恭遠が首を捻る。その様子を彼女は固唾を呑んで見守っていた。教え子の今にも泣き出してしまいそうな表情にラッセルはつい心が揺さぶられた。

「分かったよ。候補生くん。君がそんなに頼み込んで来るのだから余程のことだというのも理解した」

ラッセルは恭遠に向き直る。それから彼女の日本行きについて相談し合った。

「休み中は貴銃士や任務のこともありますし、私はイギリスに残らなければ」

「そういうことでしたら、俺が彼女に同行しましょう。多少は、日本に不慣れの彼女の助けになれると思います」

くるりと恭遠が彼女に振り向く。それから穏やかな表情を浮かべた。

「よし。今年は俺と一緒に日本へ行こう」

「あ、ありがとうございます!!!」

勢いよく頭を下げる彼女の姿に恭遠はそんなに嬉しそうにされるとはと思う。一方、ラッセルは彼女のあまりの必死さに首を傾げた。

「候補生くん。そこまで日本行きにこだわる理由を話してもらいたいのだが」

ラッセルの言葉に彼女は顔を上げる。彼女は持参していたノートパソコンを広げながら、実はと切り出そうとした時だった。

「おいマスター!おまえ、ちゃんと会員規約読んだのか?」

バンっと物凄い勢いで扉を開けて入ってきたライク・ツーがつかつかと彼女の元へ行き、彼女のノートパソコンを取り上げて何やら操作する。

「規約?あ、日本語で記載されてたやつか。あとで英訳して読めばいいかなあと思ってたんだけど」

「その必要はねえよ。十手に読ませたからな」

ライク・ツーはノートパソコンの画面を指で示す。ほらここ。そう口にするライク・ツーの隣で彼女も一緒に覗き込む。そして、ライク・ツーは先程訳してもらった十手の言葉を言った。

「会員になるには日本在住じゃないとダメなんだよ」

その瞬間、彼女はショックのあまり膝から崩れ落ちた。


 12月31日。恭遠と彼女は無事に日本に来日した。個人的な来日だったので桜國幕府には何も言わずにやって来た。しかし、空港に到着した瞬間、何処かで情報を入手したらしい桜國幕府の関係者に出迎えられ、あれよあれよというまに二人は将軍の元へ連れて行かれて懇親会に参加するはめになった。そして、会談もそこそこにせっかくの今年最後の日だからと何とか抜け出し、恭遠達が滞在先のホテルに到着したのは既に午後7時をまわっていた。
 恭遠と彼女は夕食を済ませ、一旦別れてそれぞれ風呂に入り、再びテレビの前に集合する。紅白歌合戦を見たり、たまにバラエティ番組にチャンネルを変えたり、そんなこんなで午後11時40分を迎えた時だった。

「恭遠教官はこれをお持ちください!」

そう言って彼女から渡されたのはキラキラと飾りがついたうちわだった。うちわには誰かの名字が書かれている。

「私はこちらを持ちますので恭遠教官も私のうちわと並べるように持ってください」

引き締めた表情で持つ彼女のうちわには誰かの名前が書かれている。二つ並べるとフルネームになるようだ。

「わ、分かった!頑張るよ」

眉を下げて力なく笑う恭遠の様子なんぞ目に入っていないらしい彼女はうちわをぎゅっと握りしめて一人うんうん頷いた。推しを全力で応援しなければと思いながら。
 時刻は午後11時45分。テレビの向こうでは彼女が待ちに待った東京ドームでのカウントダウンが始まった。東京ドームはたくさんの観客達で埋まっている。恭遠はなかなか見ない光景に目を瞬き、隣にいる彼女を見る。すると、彼女はテレビを前にしたまま静かに涙を流していた。

「やっと、ここに来れた」

うっ、うっ、と嗚咽を漏らしながらうちわを振る彼女の姿に恭遠は言葉に詰まった。
 ライク・ツーに聞いた話だと、彼女は幼少期より日本のアイドルグループのファンだったらしい。そのアイドルグループが一同に会するカウントダウンコンサートに行くのを彼女はずっと夢見ていた。そして、ようやく18歳を迎えたのでいよいよコンサートに行けるとチケットを取得しようと思えば、条件は18歳以上且つ日本在住じゃないと資格がないと知り、彼女は大層絶望したのである。それをかわいそうに思った恭遠とラッセルは、彼女がせめてテレビの前でコンサートが観られるように日本へ行くことを許したのだった。

「光ちゃん!光ちゃん素敵!王子様だ。本物の光ちゃんだ。ハッピーバースデーです。生きててよかったあ」

 えぐえぐと泣きながらうちわを振る彼女に対し、恭遠はつい頬を緩ませた。自分にもしも娘がいたら、こんな感じで年越しを迎えるのかなと思いながら。

2023.01.06