Bookso beautiful yet terrific.

 ふわりと彼の髪からシャンプーの匂いがした。それがあまりにも近い彼との距離を気づくきっかけとなり、私がつい動揺して動いたせいでガタンと椅子と床がぶつかる音がした。一方彼は、隣に座っていた私の行動を見つけて目を丸くさせる。それから素早く辺りを見回してから私に耳打ちした。

「敵襲ですか?」

思わず、びくりと肩が跳ねる。彼の声が直に耳の奥に入り込み、脳がとろける錯覚に陥る。

「ごめんなさい。なんでもないよ」

そっと彼の肩を押し退けてから私は再び机に向き直る。激しく高鳴る心臓の音が私の身体全体に響いていく。一層のこと、この場所が運動場ならば生徒達の騒がしい声に心臓の音なんぞ聞こえないふりができるのに。残念ながらここは誰一人として騒ぐことはない静かな図書室だ。聞こえないふりは、どうしたって難しい。

「マスター。顔が赤いですね。熱があるのでは?」

彼の掌が私の額を包む。再び近くなる彼との距離と、ダイレクトに伝わる彼の体温に私はきゅっと目を瞑っては首を横に振った。

「少し暖房が暑いから。かな?」

「それならば良いのですが。ご無理はなさらないでくださいね」

「うん。ありがとう」

私がゆっくりと瞼を開けるのと同時に彼の手が離れていく。私は机に向き直り今度こそ課題に集中せねばと気持ちを切り替えた時だった。
 ふふふと隣で小さく笑う声が聞こえて振り向くと、彼が目を細めて私を見ていた。

「いや、あの、すみません。あなたが、あまりにもかわいらしい反応をするものですから」

彼は辺りを素早く見回してから私の頬に掌を滑らせる。途端に、私の頬にぼっと熱を集めた。

「ああ、やはり。そういうことですよね。僕のこと、大好きなんでしょう?マスター?」

妖艶に笑う彼に対し、私はきゅっと口を引き結ぶ。彼の指摘に、私の代わりに心臓が返事をするように激しく高鳴っている。

「次の勉強会は、僕の部屋で二人きりで行いましょうね」

そう言うか早いか、彼は私の額に口付ける。当然、私はさらに顔を赤くする。そんな私の反応を、彼は大層嬉しそうに見つめては微笑んだのだった。

2022.01.13