Bookso beautiful yet terrific.

 咄嗟に伸ばした手は彼の緋色の軍服を掴んでいた。私に掴まれたせいで動けなくなった彼は足を止めて振り向く。それからこてんと首を傾げた。

「どうかしたのか?マスター?」

「特にどうというわけではないんだけど」

もごもごと口籠る私の姿に彼はますます困ったように首を捻る。
 それもそうだろう。任務を終えて二人で帰還しようとしているのに、私はそれを現在進行形で遮っている。

「早く学校に戻って休もうぜ」

 彼の手が軍服を掴む私の手を優しく取る。思わず、私の指がぴくりと反応する。ゆっくりと彼を見上げると、彼の大きな瞳と目が合った。

「あ!もしかして、帰りたくない?」

彼が口にする言葉に、私の顔に熱が集まっていく。まるで子供みたいに駄々をこねていることに気がつき、私はあからさまに彼から視線を外した。

「そういうわけじゃなくて。その、」

「相変わらず、マスターは照れ屋さんだな」

彼は私の行動を咎めはせず、明るく笑う。それから、彼は自らの手を動かして私の手を取り、そっと指を絡めてみせた。

「本音を言うとさ。俺もまだ、帰りたくないんだ。だから、このまま寄り道して行こう」

私が顔を上げると、彼は優しく笑っている。上手く言えない私の気持ちを汲み取ってくれる彼の提案に、私は嬉しくて頬を緩ませた。

「ありがとう、ジョージ」

「どういたしまして。さて、何処に行く?俺のプリンセス?」

 さらりと呼ばれた単語に私が目を丸くするのと同時に、彼は繋いでいた手を引っ張って私の指先に優しく口付ける。

「プリンセスがお望みなら、俺は何処へでも行くよ。今の俺は、マスターの騎士だからさ」

そう言った彼が朗らかに笑ってみせる。
 だけど、瞳の奥が僅かに歪んだのを、私は気づいている。私も彼も、いつかやって来る別れに気づかないふりをし続けるしかない。

2023.01.17