
Bookso beautiful yet terrific.
「ん?」
思わず、足を止めた。自分の胸の位置を触るが、人間ならばあるだろう心臓の箇所が何故かきゅっと締めつけられる錯覚に陥る。
「どうした?」
俺の様子に気がついたドライゼがすぐに足を止めて俺に向き直る。その顔には、例の日か?と言いだけだ。ドライゼは素直で困る。
「例のあれじゃないから大丈夫だよ。ただ、よく分からないけれど心臓と呼ばれる箇所が締めつけられるように痛い気がしてね」
「いつからだ?おまえの体調不良に気がつかなくてすまない」
「身体は健康そのものなんだけど」
いつからだったかなと俺は少し考え込む。すると、遠くから何やら叫ぶマークスの声が聞こえてきた。
「マスターだけ任務に行かせない!俺がマスターと一緒に行く!」
士官学校の校門付近でマスターの腕をぐいぐい引っ張って幼子よろしく駄々をこねるマークスの姿があった。マークスに腕を引っ張られた彼女が困ったように眉を寄せて曖昧に微笑んでいる。
「と言っても、マークスは音楽の補習があるでしょう?ちゃんとそっちに行かなきゃダメだよ」
彼女の言葉にマークスはぐぬぬと小刻みに震えている。彼女の後ろにいた任務に同行する貴銃士達は、任務のたびに恒例になっているマークスと彼女のやり取りに特に気にせずそれぞれ談笑中だ。
「俺はマスターの相棒だ」
「うん」
「マスターの一番は俺だ」
「うんうん」
「俺の一番もマスターだ」
「うんうんうん」
マークスがそう言いながら、彼女の腕を掴む手を緩めず寧ろ強くしていく。さらに密着する二人の姿に俺は口を引き結んで見るしかなかった。
再び、胸がきゅうと締めつけられる。今度は、頭に血が上るようにくらくらした。
「やっぱり体調不良みたい。悪いけど、部屋で休むよ」
ドライゼに言ってから俺は彼女達に背を向けて寮に向かって歩く。だけど、その場から遠ざかるほど心臓箇所の違和感は強くなる一方だった。
「無理をするな、エルメ。ゆっくり休んでくれ」
俺の隣に早足で追いついたドライゼの表情は気遣うようなものだった。やっぱり例の日か?と言いたげだけど。正直、一人になりたい気分だからそういうことにしておくのも悪くないだろう。
マークスの一緒に連れて行け攻撃はまだ続いているらしい。校門から聞こえるマークスの声と、それに答える彼女の声がなんだか楽しそうに聞こえて、理由も分からずさらに胸が苦しくなった。
2023.01.22