Bookso beautiful yet terrific.

 体力育成の授業で捻挫した。そのせいで放課後、エースがオンボロ寮まで私を送ってくれることになった。
 私はエースの背中におんぶされながら、ぶらぶらと足を揺らしてみせる。

「おいおいやめろよな。エースくん潰れちゃうだろ?」

「潰れちゃうのは嫌だなあ」

「だったら、おとなしくしてろっつーの」

エースが一度立ち止まり、私をおぶり直す。それから再び足を動かした。私はゆらゆらと揺れるエースの背中から落とされないようにエースの首にそっと腕をまわす。想像以上に密着するエースの背中越しに心臓の音が響いてきた。

「ドキドキしてる」

「そういうこと言う?おまえもだろ」

「バレてたかあ」

「好きな女おんぶして普通にできるわけないじゃん」

好きな女。その言葉に私は口を噤む。私が静かになったせいか、エースも黙ってしまった。
 お互いに無言のまま道中進む。いくら男の子とはいえ、一人の人間をおんぶして歩くのはとても大変のはずだ。だけど、エースは文句言わずに歩き続けている。
 やがて、オンボロ寮に辿り着く。オンボロ寮の談話室で私を降ろしたエースはくるりと背を向けた。

「おまえの荷物はデュースが運んでくるから心配すんな」

「ありがとう」

「換えの湿布はグリムが帰る時に保健室からもらってくるってさ」

「うん」

「それじゃあ。また明日」

そのまま歩き出すエースの背中を見つめる。だけど、エースは数歩だけ進んでから再び立ち止まった。

「在学中に、元の世界に帰れなかったらどうすんの?」

 唐突に振られた話題に私は固まる。何の前置きもなく出された現実的な話題に私は眉を寄せるしかなかった。

「分からない」

「本当に?学園長と何か話してるんじゃないの?」

「ううん。何も」

「だったらさ、」

くるりとエースが振り向く。私に正面から向き直ったエースは真剣な表情で口を開いた。

「学園を卒業してもこの世界に残ったままだったら、俺と結婚しよう」

「え、」

「言っとくけど冗談なんかじゃない。真面目に言ってるの」

エースの言葉に私は何も言わずに下を向いた。正直に言えば、その申し出は嬉しかった。エースが私に好意を寄せていることはあからさますぎて知っているし、私だってエースが好き。だけど。それでも。元の世界に帰るのを諦めたくない。
 私が顔を上げるとエースの瞳の奥が僅かに揺らいだ。

「その返事、待ってほしい」

「いつまで?」

「学園を卒業するまでかな」

「なっが!!!」

「私達の卒業式を迎える日まで、待ってくれる?」

きっとエースなら分かってくれる。私の、元の世界に戻りたい気持ちも、今すぐエースの腕の中に飛び込みたい気持ちも。

「いいぜ。その方が、おまえらしいもんな」

 そう言って笑ったエースは、最初から全てを受け入れる気でいたように清々しかった。

2023.01.25