
Bookso beautiful yet terrific.
いつも一緒に過ごすからこそ、親友の癖はよく知っている。髪を耳にかけて話す癖、内心思うところがある時にする眉を寄せる癖、まあいいかと僅かに頬を緩ませる癖。彼女の仕種は全てエースとデュースが把握していると言っても過言ではない。
そして、彼女の癖はもう一つあった。学校内にいる時はやらないが、彼女は登下校の際、制服の上に羽織ったコートの両ポケットに手を突っ込む癖がある。ポケットの中に手を突っ込むほど冷えるのなら手袋でもすればいいのに彼女はつけようとしない。彼女曰く、手袋するのがめんどくさいとのことだった。
だから、エースとデュースも寒空の下に剥き出しにするのを嫌う白い手をずっと気にしていた。
ある朝、彼女と一緒に登校するためにエースとデュースはメインストリートで待っていた。相変わらず、冬の朝は身体に堪える。
「おはよう。二人とも」
「おう!待たせたな!子分ども!」
やって来た彼女の手は今日もコートの両ポケットの中に突っ込まれていた。グリムは相変わらず寒さ対策と称して彼女の背負うリュックにすっぽりと入りぬくぬくだ。
「おまえって、ほんっといいご身分だよな」
「僕達は寒さに震えながら耐えているのに」
「オレ様はいいんだゾ。こいつが善意で運んでくれるからな」
エースとデュースに嫌味を言われてもグリムは全く相手にせず鼻を鳴らす。そんな二人と一匹のじゃれあいなんぞ彼女は気にせず校舎に向かって歩く。エースとデュースも彼女にならって足を動かした。
「おまえも断れよ」
「あんまりグリムを甘やかすのはよくないぞ」
「私は運び屋なのでお気になさらず。ついでに言うと、リュック越しでもあたたかくて便利なんだよねえ」
「ほーら!オレ様は特別なんだゾ!」
彼女を真ん中に右側にエース、左側にデュースが並び、三人と一匹は軽口を叩きながら学校へ向かう。校舎が近づくにつれてわらわらと増えていく生徒達の中によく知る先輩達の姿を見つけた。
少し前を談笑しながら歩いていたリドルとトレイとケイトが、エース達の声が耳に入ったらしく揃って振り返る。先輩達も、エース達も、お互いに足を止めた。すると、彼女がコートのポケットの中から両手を出して丁寧に一礼した。
「おはようございます」
彼女の挨拶に先輩達はそれぞれ返した。一方、エースとデュースも先輩達に挨拶しつつも意識は寒空の下に剥き出しにされた白い手に向いた。
彼女のもう一つの癖。礼儀正しい彼女はどんなに寒くても知り合いの先輩達に会えば必ずポケットの中から手を出すこと。
いくつか会話してから先輩達はそれじゃあとくるりと前を向いて校舎に行く。
「オレ達も早く行くんだゾ」
グリムの合図にそれぞれ頷き、先に彼女が止めていた歩みを再開される。それと同時に彼女の白い手が流れる仕種でコートの両ポケットにしまわれた。しかし、ポケットの中にしまいきる前に彼女の両手を寒空の下に引き戻す。
エースは左手で彼女の右手を握る。そっと彼女の様子を窺おうとした時、デュースと目が合った。デュースもまた、彼女の左手を自らの右手の中に包んでいる。彼女を間に挟んで、エースとデュースはお互いの目をじっと見つめた。ほんの僅かな時間なのに、僅か数秒がとんでもなく長く感じていく。
「あのさ。手、離してほしいんだけど」
彼女の言葉にエースとデュースも弾かれたように彼女の顔を見る。彼女は眉を寄せているが、ほんのりと頬を赤く染めているので説得力がない。
エースとデュースはもう一度お互いを見る。だけどすぐに、ふっと笑った。
「何やってんの」
「おまえもな」
彼女が何か言いたそうに二人をじとりと睨むが、エースとデュースは気にしない。
彼女にどう言いわけするか少し悩んだ十秒前。それでも、お互いに握ったままの惚れた親友の白い手は離せそうになかった。
2023.01.28
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