Bookso beautiful yet terrific.

 先程まで何ともなかった。
 エースとデュースとグリムと一緒に教室でくだらない話で盛り上がり、廊下で会った時に声をかけてくれたヴィル先輩とルーク先輩とは最近流行りのドラマの話題に花を咲かせた。つまり、今日の私の体調は至って健康に過ごしていた。
 それなのに、今の私は熱に浮かされたように頭がボーっとしている。その原因はおそらく、私の不注意が招いたことによる自己嫌悪に違いない。


 クルーウェル先生に呼ばれているからと急いで廊下を走ったのがいけなかった。ちょうど曲がり角から出て来たリリア先輩に向かって私はタックルをかましたのだ。当然、大層慌てた私はリリア先輩の身体から勢いよく離れてすぐに謝罪した。

「すみません!あの、お怪我はないですか?」

「大丈夫じゃ。この通り、ぴんぴんしておる」

見た目が、守るべき御方という錯覚に陥る国宝級美少年のリリア先輩だからこそ、勢い余ってタックルをかましたことに、物凄く申し訳ない気持ちになるのは当然のことだ。だけど、私の謝罪にかわいらしい笑顔で返してくれるリリア先輩のおかげで罪悪感がほんの少しだけ薄れた。不思議な先輩だと思う。

「ご無事でよかったです。本当に、すみませんでした」

 再度、改めて謝罪の言葉を口にした。きちんと腰を折って頭を下げる私の姿に、リリア先輩はまったく気にする素振りを見せずにこやかだった。
 リリア先輩からの許しにホッとしつつも、やっぱり申し訳なさが上回る。複雑な気持ちで溢れる胸中のおかげで、頭から顔にかけてじわじわと熱が集まっていった。

「あまり気にするでないぞ。寧ろ、おぬしがぶつかって来たことはわしにとって好都合」

 冗談っぽい口調でそう言ってから、リリア先輩はおもむろに手を伸ばして私の額に掌を当てた。

「先程から思っておったのじゃが。おぬし、熱があるのではないか?」

リリア先輩の気遣いが、余計に私の熱を増幅させた。

「い、いえ。まったく」

精一杯の返しがこれだった。タックルした相手に心配かけるなんぞ、申し訳なさすぎる。
 私の反応にリリア先輩は目を丸くさせるが、すぐにいつものようにかわいらしい笑みを浮かべる。それから私の額から手を離し、その手で私の肩を軽く叩いた。

「微熱かもしれないが、ちゃんと保健室に行ったほうが良いのう。わしが連れて行こう」

リリア先輩が私の返事を待たずに保健室に向かうよう促してくるので、結局私はそれに従うことになった。今の私には、本来の目的であるクルーウェル先生の元へ向かうことなんぞ考える余裕がなかった。
 この微熱の本当の正体を、私はまだ知らない。

2023.02.04
微熱|女監督生受け版ワンドロワンライ