
Bookso beautiful yet terrific.
政府からの出陣要請を順に確認していると、すっと障子が開いた。
「主。失礼いたします」
私に一声をかけた長谷部は文机を挟んで私の目の前にぴしりと背筋を正して正座する。私は書類から目を離さないまま長谷部の言葉の続きを待つ。すると、当の長谷部は大きく深呼吸してから口を開いた。
「主。あなたの腕を足を首を声を俺にください」
「懐かしい台詞だね」
「あなたを傷つけるだけの世界なら捨ててしまって」
「バレンタインデーの話をしてるの?」
私がようやく顔を上げて長谷部を見ると、長谷部は相変わらず真剣な表情を浮かべている。
要するに、長谷部はこう言いたいのだ。私の手をしっかりと使って作った手作りチョコレート菓子が欲しいのだと。しかし、それが原因で私が調理中に怪我をするのは嫌だと彼は言う。少しちぐはぐな話だ。
私は書類を一旦文机の上に置いて姿勢を正す。私がきちんと向き直ったことを察した長谷部は顔に緊張の色を滲ませた。
「今年のバレンタインデーなら、光忠や歌仙を始めとした炊事が得意な刀剣男士達が手作りチョコレート菓子を用意してるよ」
「それは主が作ったわけじゃない!俺は、主が作ったチョコレート菓子が欲しいんです!」
「私より料理上手の刀達から貰った方がいいでしょうよ」
「俺にとっては主が作った物がこの世の何よりも嬉しくてご馳走なんです!!!」
懇願するように訴えられても困る。でも、正直こうなるだろうとは予想していた。
長谷部は何かと理由をつけては私からの贈り物を要求する。長谷部が誕生した記念日とか、クリスマスとか、果ては歴史上に記された長谷部が主君から主君へ渡された日など。
私は小さく息を吐く。その瞬間、長谷部は肩を落とした。私はそんな長谷部を余所にその場を立ち上がり、自室に備えつけた戸棚を開けて例の物を取り、それから長谷部の側に膝をついた。
「しょうがないなあ。他のみんなには用意してないの。だから、内緒にしてね」
長谷部にラッピングされたチョコレート菓子を差し出すと、長谷部は弾かれたように私の顔を見る。実は私の手作りではなく既製品を買っただけ。その旨を説明している側から長谷部はチョコレート菓子に両手を伸ばしてがっちりと掴む。その瞬間、つい先程まで落胆していたくせに、今度はぱあっと顔を輝かせてみせた。
「ありがたき幸せ!!!命をかけて大事にいたします!!!」
「命をかけないでいいからみんなにバレる前に食べちゃって」
「主命とあらば!!!」
見るからに嬉しそうにする長谷部の姿に私はつい頬を緩ませる。なんだかんだと長谷部を甘やかしてしまう私も大概だと思った。
2023.02.14