Bookso beautiful yet terrific.

「おはようございます、監督生さん。本日はバレンタインデーですね。確か、バレンタインデーは監督生さんがいた世界だと友人知人家族に感謝や想いを伝える日だと風の噂で聞きました。ですよね?」

 にこりとアズール先輩が一息に言ってのけるので私は思わず目を瞬いた。私の両隣にいたエースとデュースが揃って耳打ちしてくる。

「おまえ。朝っぱらから何したの?」

「謝るなら今のうちだぞ。きっとアーシェングロット先輩だって誠意を込めて頭を下げれば許してくれるから」

「何もしてないんですけど」

ちらりとアズール先輩に視線を向けると、アズール先輩はにこにこと笑顔を浮かべたままそこに立っている。
 朝っぱらからメインストリートのど真ん中を陣取っているアズール先輩と、震える子羊と化した私達を登校中の生徒達の奇異の目に晒された。
 私はエースとデュースの制服の袖をやんわりと引っ張ってから二人に聞こえるように耳打ちする。

「身に覚えがなくても謝っておけば許してくれるかな?」

「それ、適当すぎね?」

「相手に失礼だろう」

私の考えは親友達に即却下された。思わず、小さく息を吐く。その瞬間、アズール先輩がずんずん近づいてきたかと思えば、私からエースとデュースを引き剥がしてしまった。

「あなた方。彼女にくっつきすぎでは?」

アズール先輩からの言葉に、私もエースとデュースもお互いに顔を合わせて目を丸くする。というか、いつもこんな雰囲気なのにくっつきすぎと言われても反応に困りますが。

「お!いた!子分!待たせたんだゾ!」

 私達とアズール先輩のことなんぞ気にせずやって来たグリムは大層嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

「ちゃんとトレイのところに寄って来たんだゾ。放課後、予定通りバレンタインパーティーやるってトレイが言ってたんだゾー!!!」

 グリムの言葉を聞いたアズール先輩がぴくりと反応する。それから眼鏡のフレームの位置をすっと直してから再度口を開いた。

「グリムさん。そのパーティーはどちらで開催されるのでしょうか?」

「ハーツラビュル寮に決まってるんだゾ。トレイが張り切ってたからな」

「へえ。そうですか」

 くるりとアズール先輩が私に向き直る。ズンズンと私の元へ近づいたアズール先輩は大層綺麗な顔で微笑んだのだった。

「もしや。あなたが招待される方ですか?」

「招待というか。ただ、日頃の感謝を伝えようかなあと思っていたらトレイ先輩から一緒にバレンタインデーにパーティーしようと誘われただけで」

「そのパーティーとやら。あなたの恋人であるはずの僕は招待されておりませんが」

恋人!?と、私とエースとデュース以外にもメインストリートに居合わせた登校中の生徒達全員の声が重なった。

「恋人って。あの、何の冗談ですか?」

あまりにもありえない単語に私は恐る恐るアズール先輩に尋ねた。しかし、アズール先輩から返ってきた言葉は予想もしなかったことだった。

「まさか忘れたのですか?先日、僕が想いをしたためた手紙をあなたに渡したでしょう?」

「え、」

「手紙と一緒にモストロ・ラウンジ特製のまるでアクアリウムのような飴玉も同封してオンボロ寮のポストに入れたはずですが」

残念ながら、全く身に覚えがない。ここ数日、ポストにそのような郵便物は入っていなかった。
 ふと、恐る恐るグリムが手を挙げる。私とエースとデュースも、アズール先輩も揃ってグリムに視線を向けた。

「その手紙。たぶん、オレ様の部屋にあるんだゾ」

「グリムの部屋に?」

「綺麗な飴玉が入ってたから、つい」

段々と小さくなっていくグリムの声に、私はああと理解した。グリムのことだから、手紙と同封された飴玉に目が眩んで食べちゃったのだろう。

「グリム。それは相手がまずかったなあ」

「よりによってアーシェングロット先輩のラブレターを開けるとは」

エースとデュースが呆れたようにグリムに声をかける。一方、真相を知ったアズール先輩は絶句していた。

「あの。アズール先輩」

 呆然と立ち尽くすアズール先輩に私は声をかける。

「僕とあなたは恋人同士。あなたは僕の番。僕はてっきりあなたから想いが贈られると信じていたのに」

ぶつぶつと呪文のように呟くアズール先輩の姿に私は苦笑いを浮かべる。それからもう一度声をかけた。

「今日の放課後。ハーツラビュル寮でバレンタインパーティーしますのでアズール先輩もご一緒にいかがですか?」

「他の野郎がいるバレンタインデーなんて」

「そう言われてもなあ」

うーんと思わず首を捻る。正直、アズール先輩には悪いが恋人になってほしいと言われてもピンと来ない。

「まずは、お友達からでもいいですか?」

「お友達、だと?」

「はい。お友達です。だから、パーティーにもご参加いただけると嬉しいです」

半分虚ろ状態だったアズール先輩の目が私を見た。私はやんわりと頬を緩めながらもう一度尋ねた。駄目ですか?と。

「まあいいでしょう。お友達、上等です。いつか、あなたのことを振り向かせてやりますよ」

そう言ったアズール先輩はいつも通りの自信に満ちた表情を浮かべてみせた。
 その瞬間、メインストリートに居合わせた面々から拍手と歓声が沸き起こる。バレンタインデーの日にされた公開告白はあっという間に学園中に話が広まったのだった。

2023.02.14