Bookso beautiful yet terrific.

 廊下を歩いていると、後ろからやって来た人物にパシッと手を取られた。

「ああ、マスター。こんなところにいたんですね。探しましたよ」

にこりと綺麗な微笑みを浮かべるエンフィールドの姿に、私は自然と足を止めた。

「どうしたの?」

用件を尋ねながら空いている手でエンフィールドの手を退かそうとするが、残念ながらエンフィールドの手はがっちりと私の手を握って離してくれなかった。

「今日はバレンタインデーですので、日頃の感謝を込めて僕から贈り物を用意いたしました」

「わあ嬉しい。どうもありがとう」

「では。行きましょう」

言うか早いかエンフィールドは私の手を握ったまま足早に歩き出す。それからエンフィールドの自室の前に来たかと思えば辺りを見回し、有無も言わさず私の身体を素早く部屋の中に押し込んだ。

「マスター。僕の部屋へようこそ」

 言葉と同時に部屋の鍵が、がちゃりとかかる音がした。

「あまり長居すると悪いし、鍵はいいよ。ほら、他の貴銃士や教官に探されるかもしれないしさ」

「今日くらい大丈夫ですよ」

「そうかなあ」

「マスターは心配性ですね」

クスッと笑ったエンフィールドは私の手を引いて自室の椅子に座るよう誘導する。私が着席するのを見届けてから、チョコレートケーキと紅茶を二人分用意してテーブルの上に置いた。

「マスターとご一緒にお茶会できるなんて、光栄です」

「こちらこそ。お招きいただきありがとう」

おいしそうな匂いについ顔が綻んでいく。そんな私の姿にエンフィールドは優しげに目を細めてはテーブルの向かい側の席についた。
 いただきますとお互いに口にしてからまずはあたたかい紅茶の入ったカップを持ち上げる。香り高い茶葉の風味を愉しんでから、次にフォークを持ってチョコレートケーキを口に運ぶ。

「おいしい。すっごく幸せ」

「よかった」

エンフィールドはホッとした雰囲気を隠しもせずに私のことを見つめてくる。まるで恋人が見つめる視線のそれに私は思わず動きを止めた。

「いかがなさいました?」

 エンフィールドは常に私のことを見ている。私の一挙一動をしっかり目に焼きつける。

「なんでもないよ」

「そうでしょうか?ずいぶんと緊張されているようにお見受けいたしますが」

そうやって言われてしまえばお茶会どころではない。紅茶もチョコレートケーキの味も、顔と耳が熱いせいで分からなくなってくる。

「ああ、そうそう。僕からの贈り物ですが、感謝以外にも入れさせていただきました」

 唐突に言われた言葉にエンフィールドを見ると、エンフィールドがにこやかに返してくる。

「僕の想いを詰め込んだ惚れ薬をたっぷりと。どうですか?お味は?」

思わぬ話に私は目を大きく見開いた。少しの間固まる私の姿を見ては、エンフィールドは楽しそうだった。

「冗談ですよ。惚れ薬なんてファンタジー小説の中だけの世界ですから」

「もう。エンフィールドってば」

「ですが。僕からの贈り物にあなたへの想いを込めたのは本当です」

にっこりと大層綺麗な微笑みを浮かべたエンフィールドは、すっと手を伸ばしてフォークを握ったままの私の手を優しく包む。

「ああ、マスター。お顔が真っ赤ですね。なんと、愛らしいんでしょう。ええ!」

そう言ってのけるエンフィールドに、今日も私は振り回されていく。

2023.02.14