
Bookso beautiful yet terrific.
「ああ!私はなんという過ちを犯してしまったのだろう!」
廊下を歩いていると、まるでドラマの台詞みたいな言葉が聞こえて、つい階下の外を覗いた。そこには中庭で大層悲観的に首を横に振るルーク先輩の姿があった。
「私のかわいいトリックスター。どうか出て来ておくれ」
何かあったのかな?と思う間もなく続いた言葉に私は瞬きをする。どうやら、ルーク先輩の過ちとやらは私が関係しているらしい。
「あの。ルーク先輩?」
中庭を覗いたままルーク先輩に声をかけると、ルーク先輩はすぐに上の階の廊下にいる私を見上げてにっこりと笑う。それから両手を広げてみせた。
「私の愛しいプリンセス。ずっとキミに会いたかったよ」
「トリックスターからプリンセスになっちゃった」
思わず、苦笑いが出る。ルーク先輩の私に会いたいというのは大層熱烈な求愛ではなく、ただのキミに用があって探していたよ!である。ちなみに、その場にたまたま居合わせた何人かの生徒達は、いつものことかと特に気にしてはいないらしい。
「どうかしました?もしかして、急用でしょうか?」
何の用事かと思って尋ねると、ルーク先輩は両手を広げたまま首を横に振った。
「ノン!そうじゃないのさ」
「と、言いますと?」
「今すぐキミをこの腕の中に閉じ込めたくなってしまってね」
「それの何処が過ちなのでしょうか?」
「私の腕の中にキミを閉じ込めて、このままずっと離したくない。そう思ってしまったことだよ」
私は再度瞬きをする。ルーク先輩の言葉と両手を広げる姿に、思わず首を傾げた。
「呼んでいただければ、私はいつでもルーク先輩の腕の中に行きますよ」
過ちという大袈裟な表現をルーク先輩はするが、私はルーク先輩に抱きしめられて離してもらえなくても構わなかった。そもそも、ルーク先輩とは恋人同士だし。
私の返事を聞いた瞬間、ルーク先輩の表情がぱあっと華やいだ。
「それならば!今すぐ私の胸に飛び込んできておくれ!」
「え。ここ、2階ですが」
「心配いらないよ。私が必ず受け止めるからね」
相変わらずの素敵な微笑みでルーク先輩は言ってのけた。私はルーク先輩が言うならと、特に疑問を持たずに、中庭に向かって飛び降りた。空中に身体が出た瞬間、重力に従って落ちる時間がふんわりとゆったりとしたものに変わる。そのまま緩やかに私の身体は両手を広げるルーク先輩の胸に吸い込まれていった。
ルーク先輩の胸に辿り着くと、すぐに私の背中にルーク先輩の両腕がまわる。それからいつものように優しく気遣ってくれた。
「怖かっただろう?」
「ルーク先輩が魔法をかけてくれる気がしたので、特には」
「私を信じてくれたんだね。とっても嬉しいよ」
ぎゅうと抱きしめる腕に力が加わる。その締めつけすら心地良くて私はルーク先輩にされるがままだ。
「ところで、」
ふと、ルーク先輩が思い出したように口を開く。ルーク先輩の声に顔を上げてルーク先輩を見ると、ルーク先輩がいつもより真剣な表情を浮かべていた。
「先程の答え、後悔はないかい?」
「答え、ですか?」
「私の腕の中にずっと閉じ込められる、という話のことさ」
「え?ああ、勿論。その方が私も嬉しいですし」
その瞬間、ルーク先輩の表情が緩んだ。
「もう逃さないよ。私のプリンセス」
ルーク先輩からのさらに力の加わった熱い抱擁に私は首を傾げつつも相変わらずされるがままだった。そんな私達の姿をその場に居合わせた生徒達が呆れたように苦笑いを浮かべては見て見ぬふりをしていた。
ちなみに、ルーク先輩の言葉の意味が未来を意味するプロポーズだと私が知るのは、しばらく経ってからのことだった。
2023.02.17