
Bookso beautiful yet terrific.
「おはようございます、監督生さん。本日は僕が誕生した日ですね。ところで、あなたは何か僕に渡すものがあるはずでは?あなたと僕は恋人同士ですので、この僕にたっぷりの想いを乗せた愛をぜひ伝えてくれますよね?ね?そうですよね?」
2月24日の朝。いつものように登校するためにメインストリートを歩いていると、10日前のバレンタインデーの日と同じようにメインストリートのど真ん中を陣取ったアズール先輩に足止めを喰らった。
にこりと微笑みながら一息に言ってのけるアズール先輩に対して私は思わず目を瞬いてしまう。私の両隣で同様に話を聞いていたエースとデュースが揃って私に耳打ちしてきた。
「おまえ。また何かやらかしたの?」
「謝るなら今のうちだぞ。きっとアーシェングロット先輩だって誠意を込めて頭を下げれば許してくれるから」
「あのね二人とも。私何もしてないから」
つい短く息を吐くと、ぴくりと反応したアズール先輩がずんずんと私の目の前に足を進めてくる。それから私とずいぶんと近い距離で仁王立ちしたアズール先輩はじとりと私を睨んだ。
「何もしてないから僕はあなたの元へやって来たんです」
「ごめんなさい。仰る意味が、その、ちょっと」
「分からないとでも?ならば、教えて差し上げましょう」
私の返答にアズール先輩が大袈裟なくらい溜息を吐き、再び私をキッと睨む。
「本来あなたは恋人である僕の誕生日に真っ先に連絡を寄こすか駆けつけるべきでしょう!!!それなのに。あなたときたら」
話しているそばからもう一度溜息を吐くアズール先輩の姿に私は困惑していく。そんな私の気持ちを代弁するように、私の足下にいたグリムが呆れたように言ってのけた。
「つーか。おまえら恋人同士じゃねーゾ」
「聞き捨てなりませんねえ。僕達は10日前には恋人同士前提のお友達になった仲です!!!」
「それ、恋人同士って言わないんだゾ」
グリムの言葉にアズール先輩が余計にキーッとなっていく。そんなアズール先輩を余所に、エースとデュースはぼそぼそと私に声をかけてきた。
「どうすんの?これ。いっそのこと付き合っちゃえば?」
「付き合うかどうかはともかく。まずはアーシェングロット先輩の誕生日をお祝いしよう」
「確かになあ。お世話になっている先輩だし」
エースとデュースの言葉を聞き、私は考える。それからアズール先輩に向き直り、深々と頭を下げた。
「アズール先輩。すみません。私、今日がアズール先輩のお誕生日だなんて知りませんでした」
「そんな!!!僕はあなたの恋人ですよ?」
「恋人ではなくお友達です」
ガーン!!!と自分で効果音を口にするアズール先輩に私は苦笑いが出る。
ちょうどその時だ。アズール先輩の後ろからジェイド先輩とフロイド先輩がやって来る。二人は私やマブ達とグリムに朝の挨拶をしてから私に向き直った。
「既にアズールから聞いていると思いますが、本日はオクタヴィネル寮でアズールの誕生会を開催しますので、アズールの恋人である監督生さんもぜひお越しくださいね」
「えー?もう恋人になったの?確かまだお友達段階じゃなかったっけ?まあいいや。よかったじゃん、アズール」
ジェイド先輩とフロイド先輩の言葉を聞き、なんで恋人になっちゃってるの?お友達からじゃなかったの?と思いつつアズール先輩を見やると、アズール先輩は肩を落としながらぶつぶつと何やら唱えていた。
「僕とあなたは恋人同士。あなたは僕の番。僕はてっきりあなたから想いが贈られると信じていたのに」
アズール先輩の呪文のような独り言は10日前にも聞いたような気がした。
私はうーんと首を傾げながら考える。アズール先輩の恋人になりたいわけではないが、お友達としてもお世話になっている先輩としても誕生日をお祝いしたい気持ちはある。
相変わらず肩を落としてどんよりした雰囲気のままのアズール先輩に私は向き直る。
「お誕生日会。ぜひ行きますね」
私の言葉を聞いた瞬間、アズール先輩の顔がバッ上がって私を見た。それから、見る見るうちに明るいものに変わっていく。
「それはつまり、僕と結婚するということですね?」
「違います。しかも、お友達どころかずいぶんと関係をすっ飛ばしちゃってますけど」
「必ず、幸せにします」
「え?話聞いてます?」
「勿論。あなたの話にはいつでも耳を傾けていますよ」
にこりと微笑むアズール先輩に対し、エースはこっわ!とツッコミ、デュースは引いている。グリムすらも呆れ顔だ。私もツッコミどころはたくさんあるが、それよりも聞いておかなければならないことがあった。
「アズール先輩は、誕生日プレゼントのご希望はありますか?あまり高価な物はリクエストに応えられませんが、叶えられそうなら用意して会場に向かいますので」
「誕生日に、なにか欲しいものはないか、ですか。ありますよ。それこそ汲めども尽きぬ海のように」
にこにこと間髪入れずに返されるアズール先輩に私はつい苦笑いが溢れた。この返しはアズール先輩らしいなあと思う。
「真っ先に思い浮かぶ欲しいものはあなたですけどね」
「それは困りますねえ」
「まあ、いいでしょう。今は」
不意に、アズール先輩の顔つきが真面目なものになった。
「プレゼントしていただく必要はありません。欲しいものはすべて、僕自身の力で手に入れます!タダより高いものはありませんからね」
「それは、物はいらない。ということでしょうか?」
「そういうことです。ま、お気持ちだけは受け取りましょう。あなたからの想いをね。あなた自身のことは近々正式にプロポーズして婚姻届にサインをしてから順を追ってにいたしますね」
「え?だから違います」
「ありがとうございます」
再び、にっこりと微笑むアズール先輩に対して私の顔が引きつった。そんな私の両肩をエースとデュースにそれぞれ叩かれる。無言で首を横に振る二人に私は眉を寄せた。
「ご結婚おめでとうございます。アズール」
「結婚おめでとー。アズール」
ぱちぱちと手を叩くジェイド先輩とフロイド先輩に何を言っても無駄だろう。
一方、一連の流れを見たり聞いたりのたまたまメインストリートに居合わせた生徒達はいつものことかと苦笑いを浮かべて足早に去っていく。
「子分。諦めた方がいいと思うゾ」
グリムにまで言われちゃうのだから、私に逃げ場は本当にないのかもしれない。
とりあえず、恋人云々はさて置き。アズール先輩のお誕生日はしっかりとお祝いしようと思った。
2023.02.24