Bookso beautiful yet terrific.

 士官学校の図書館はとても大きい。そのため、考古学や経済学、果てはファンタジーに幼児向けの絵本まで置いてある。その中でも私の一番のお気に入りはおとぎ話だった。王子様に見初められたお姫様が幸せに暮らす物語。正直、戦争孤児の私がそんな夢のような物語に憧れるのも変な話だろう。いや、寧ろ、革命戦争で両親を亡くしたからこそ現実味のない夢のような物語に夢中になるのかもしれない。
 さて。私は今日も夢物語を探しに図書館へ向かう。その道中、後ろからやって来た人物に声をかけられた。

「ああ!僕のマスター!これから図書館ですか?」

「うん。行く途中。というか、いよいよ僕のがついちゃったね」

「え?駄目ですか?」

「私はエンフィールドだけのじゃないよ」

エンフィールドはきょとんとした表情を浮かべたかと思えば、つかつかと距離を詰めてくる。それからおもむろに手を伸ばして私の頬に触れた。

「そう仰るわりには、僕に触れられた時だけですよ。あなたの顔が赤くなるのは」

エンフィールドの手が私の頬から顎をなぞり、最後に唇を親指の腹で滑らせていく。私の目としっかりと目を合わせたエンフィールドが艶やかに微笑んでみせた。

「ほら。今もお顔が赤く染まりました」

そうやって言われてしまえば意識しないわけがない。私の顔は自分でも分かるくらいに熱くなった。

「こんなに近い距離にエンフィールドがいるから驚いてるだけ」

「他の貴銃士とご一緒の時のマスターはお顔を赤くせず普通ですよ?」

こてんと首を傾げてさも不思議そうな表情を浮かべるエンフィールドに、私は言い返すことができずぐっと唇を噛む。それからエンフィールドの胸板を両手で押して距離を取った。

「それじゃあ。私、図書館に行くから」

 赤くなった顔を隠すようにふいっとエンフィールドから顔を背けた私は足早に歩き出した。しかし、残念ながらこれで放っておいてくれるエンフィールドではない。

「お目当ての本は、いつも読まれるおとぎ話ですか?」

「まあ。そんなところかな」

逃げるように早足で歩いているはずなのに、エンフィールドは難なく私の隣を歩く。このまま図書館までついてくる気らしい。

「ああ。そういえば」

 何の脈絡もなくかけられた言葉と同時に、私の腕がエンフィールドによってパシッと掴まれたせいで前に進めなくなった。私がエンフィールドをついじとりと睨むと、エンフィールドは特に気にした様子もなく私の腕を掴む手をゆるゆると動かして私の手を握っていく。そのまま流れるような仕種で私の指先に自らの唇を触れた。

「物語の王子様に憧れるのは結構ですが、あなたのプリンスは僕だけですよ」

にっこりと微笑んでは言ってのけるエンフィールドの姿に、私は瞬きを繰り返す。それから何をされたのか気づいた私はボッと顔に熱を集めていった。

「と、図書館に行くから!ま、またね!」

動揺しながらエンフィールドの手から逃げるように自分の手を引っ込め、これ以上はエンフィールドに追いつかれないように図書館に向かって走る。

「僕から逃げるのですか?いけないプリンセスですね」

 残念ながら、これで逃してくれるようなエンフィールドではなかった。エンフィールドは言うか早いかさっと私と距離を詰め、私の手を取って動きを止めさせる。次の瞬間には、私の背中と膝裏に両手をまわして軽々と抱き上げてきた。

「え、エンフィールド!?」

「ああ、僕のプリンセス。このまま僕があなたの望む場所までお連れしますね。ええ!」

至近距離でうっとりとしたように微笑むエンフィールドに対し、私の顔は赤くなるどころか青くなっていく。

「まさか。これで?」

「勿論です。さて、目的地は図書館でしたね。行きましょう、僕のプリンセス」

「え、ちょっと、」

 その後。エンフィールドは確かに図書館まで連れて行ってくれたけど、すっごく遠回りして士官学校の敷地内を端から端まで歩いてから図書館に向かうので色んな人達に見られるはめになった。恥ずかしさに頭を抱える私とは違い、私をお姫様抱っこして大層ご機嫌よろしく歩くエンフィールドの表情はとっても輝いていたのだった。

2023.02.25