
Bookso beautiful yet terrific.
ふと、隣を歩いていたファルが足を止めたので、私もファルにならって足を止めた。
「どうかした?」
私の問いにファルが答えないので、私はファルの視線の先を辿る。そこにあるのは帽子屋で、ウィンドー越しに着飾ったマネキンがこちらを向いていた。
「いや、」
何かを言いかけたファルが私に振り向く。ファルはじっと私の顔を見つめては、再びマネキンの方を見た。
「少し、寄り道しても?」
「え?うん。大丈夫だけど」
ファルからの思わぬ言葉に私は瞬きしつつも了承した。それを聞いたファルは私の腕を引っ掴んで帽子屋の中に足を踏み入れてしまった。
少し、大人びたデザインの帽子が並ぶ店内に、まだ学生である私は目新しく店内を見回す。そんな私をさておき、私の腕を離したファルは店員さんといくつか会話をした後、店員さんから紙バッグを受け取り早々に店を出た。
「用事は済みました。さあ、行きますか」
そう言ったファルがゆったりとした足取りで歩き出す。心なしか、紙バッグを持つファルの手は何だか楽しそうな雰囲気だった。私はファルの後ろ姿を見つめて首を傾げつつも、少しだけ柔らかい雰囲気のファルに、まあいいかと思ってついていく。
「卒業おめでとうございます。私からの気持ちです。受け取っていただけますか?」
この出来事からずいぶん経った、私が士官学校を卒業する日。ファルからマネキンが被っていた帽子が私に贈られるなんぞ、今の私はまだ知らない。そして、ファルの気持ちとやらも、知らぬまま。
2023.03.07