
Bookso beautiful yet terrific.
何処にいても、ミカエルがピアノを演奏する音が分かるようになった。始めは、またピアノ弾いてるの?くらいの気持ちだったけど、次第に、何の曲を弾いているのか、これはミカエルオリジナルの曲だと、聴き分けるようになった。そして、いつのまにか、ミカエルの弾く曲が恋愛なのか、別れなのか、祝福なのかも分かるようになった。
つまり、私はミカエルを信奉する一人になったのだろうと思っていた。たった今、ミカエルに言われるまでは。
「きみ。僕に恋をしているようだね」
今日もうっとりとミカエルの弾く曲に酔いしれていると、ミカエルが私の姿を見つけた途端に演奏する手を止めてそう言ってのけた。
「恋?」
思わず、私はミカエルに聞き返した。いや、正しくは、自分自身に尋ねたというのが正しい気がする。
「恋なのかなあ。ミカエルの弾く曲は好きだけど。そういうの、あんまり考えたことないし」
「自覚がないのはきみの音を聞くだけで分かるよ。心臓のリズムも、真っ白い紙に桃色の液体を僅かに垂らしたようなものだからね」
ミカエルの例え話に私は首を傾げる。だけど、ミカエルは私の反応なんぞ最初から分かっていたかのように、楽しそうに微笑んでみせた。
「それじゃあ。僕から伝えてあげる」
一歩だけ、私に近づいたミカエルが柔和な表情のまま私を見つめた。
「きみが、好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の心臓が一際跳ねた気がした。急に、身体中が心臓になったかのようにドキドキする。私の反応の変化にすぐに気づいたミカエルは、ただただ優しく微笑むだけだった。
2023.03.07