Bookso beautiful yet terrific.

 朝、登校するためメインストリートを歩いていると、いつぞやと同じように道のど真ん中に陣取ったアズール先輩のせいで先に進めなくなった。

「おはようございます、監督生さん。本日は3月14日、ホワイトデーですね。先月は僕のためにバレンタインデーパーティーを開催していただきありがとうございました。ささやかではありますが、僕からはあなたへのお返しにモストロ・ラウンジのVIPルームにてホワイトデーディナーに招待いたします。そこで、大事な話もさせてください。具体的には婚姻届にサインをして」

「おはようございますアズール先輩。今日の放課後、ハーツラビュル寮でホワイトデーパーティーを開催するんです。せっかくのお誘いですが、お気持ちだけいただきますね。それでは失礼いたします!エースとデュースとグリム!!!早く行くよ!!!」

私はアズール先輩のつらつら並ぶ言葉を遮って、即座に両隣にいるエースとデュースの腕を掴んで走り出した。色々と察したグリムも私が走る直前に私の背中に飛び乗ってしがみついた。おかげで、無事にメインストリートから脱出できそうだ。

「なんかアズール先輩、最近遠慮なくなったんじゃね?」

「ああ。前よりぐいぐい来るようになった気がする」

一緒に走りながらエースとデュースが呆れた口調で話しつつ、首を後ろに向けた。どうやら、そこには突っ立ったままのアズール先輩がいるらしく、デュースがちらりと私を見た。

「あんなにおまえのことを好きになってくれる男、なかなか現れないと思うぞ。僕、悪くない気がしてきた」

「勝手にお友達から婚約者の位置に昇格しちゃう人の何処が悪くないの?めっちゃくちゃ困るわ」

私はデュースに返しながらもとにかく全速力で走り続ける。だけど、何かに気づいたらしいエースが、げっ!と声をあげた。

「監督生!!!前見ろ!!!」

 エースが急停止するので、エースの腕を掴んだままの私もつられて止まる。それは私に掴まれたままのデュースも同じく走るをやめた。

「な、何ごとなんだゾ?」

恐る恐る、私の背中にしがみついていたグリムが前を覗く。私達の目の前には、にっこにこに微笑んだジェイド先輩とニヤニヤと笑うフロイド先輩が立ち塞いでいた。

「監督生さん。見つけましたよ。本日、お迎えに上がりますね」

「今日のアズール、タキシード着てくるからさあ。小エビちゃんもいーっぱい着飾ってきてね」

「え?私、先約が」

即座に返そうとしたら、すっと伸びてきた手が私の肩を掴んだ。私が振り向くと、いつのまにか追いついたらしいアズール先輩が私の肩を掴んだままにっこにこに微笑んでみせた。

「あなたの衣装についてはご心配なく。ヴィルさんにお願いしてありますので」

「え?先程も言いましたけど。私、放課後はハーツラビュル寮のホワイトデーパーティーに行きますので。それに、パーティーのための準備をトレイ先輩と一緒にする約束もしてますから」

「僕以外の男の名前なんぞ聞きたくありませんねえ。で?何でしたっけ?放課後はモストロ・ラウンジに行きますよね?ね?勿論、あなた1人で来てくださいね。僕、あなたが来るまでずーっとお待ちしております」

アズール先輩からの圧が凄い。私はアズール先輩から視線を外してエースとデュースとグリムを順に見ていく。私と目が合った2人と1匹は無言で首を横に振るだけだった。
 私は再度アズール先輩に視線を戻す。しかし、アズール先輩は先程見せた微笑みではなく大層不安そうな表情を浮かべていた。それがあまりにも意外に思った私は、つい目を丸くする。だけど、アズール先輩のその表情は瞬時に消されていつもの自信満々の態度に戻った。
 何故かは分からないが、アズール先輩が一瞬だけ見せたあの表情が頭から離れなかった。
 私は、掴んだままだったエースとデュースの腕を離してからアズール先輩に向き直る。

「お気持ちは嬉しいですが、今日は約束があるのでごめんなさい。ですが、アズール先輩もハーツラビュル寮のホワイトデーパーティーに来ていただけませんか?」

「他の野郎がいるホワイトデーなんて」

あからさまに顔を顰めるアズール先輩の姿に、私は苦笑いを浮かべる。そういえば、バレンタインデーの時も同じようなことを言ってたなあと思い出した。

「私。アズール先輩が来るのを、待っています」

私の言葉にアズール先輩が目を見開いた。だけど、それはほんの一瞬だった。アズール先輩は眼鏡のフレームの位置を直してから私に向き直り、やんわりと頬を緩ませた。

「あなたからのせっかくのお誘いですからねえ。参加、しますよ。その代わり、あなたと同じテーブルにつくのはそこのトランプ兵達ではなく、この僕であることをくれぐれも忘れずに。いいですね?」

「分かりました。場所、空けておきます」

 私の中で、アズール先輩に対しての何かが変わった気がするけど、理由は分からなかった。

2023.03.14