Bookso beautiful yet terrific.

 セベクが喜ぶものは何だろうか。若様のサイン入りブロマイド?若様の写真集?若様の写真つきカレンダー?若様のボイス音の目覚まし時計?それとも、若様からの労いの言葉ならば涙を流して拝み倒すかも。
 結局、私はセベクに何を渡せばいいか思い浮かばないまま3月17日を迎えた。誕生日に贈り物一つも用意できない友人なんぞを持ったセベクが哀れだ。
 重い気持ちを抱えて、登校するためにオンボロ寮の玄関を開けると、門の入り口に立っているセベクの姿を見つけた。

「げえ!?セベクがいるんだゾ。オレ様、朝っぱらからうるさい声聞きたくないから先に行くからな!!!」

私と一緒に登校しようとしていたグリムはセベクを見つけるなり物凄い勢いで学校へ向かって行った。その途中、門の入り口に立つセベクと何やら騒ぎ合っていたけど。はっきり言って、グリムの騒がしさも大概だ。
 走り去ったグリムの背中を目で追いながら鼻をフンと思いっきり鳴らすセベクの元へ行く。すると、私の気配に気づいたらしいセベクが不機嫌を隠そうとせずに私を見た。

「おはよう」

「ああ。おはよう」

会話がそこで止まった。セベクの眉間にさらに深い皺を刻んでいく。私は何を言えばいいか悩んだけど、結局ありきたりの言葉を述べた。

「お誕生日、おめでとう」

「ああ」

間髪入れずに返された短い声に私は口を閉ざした。セベクはじっと私の目を覗き込んできたかと思えば、急に深々と息を吐いた。

「何も、無しか?」

「え?ああ、うん。その、ごめんなさい」

つい、下を向く。何を喜んでくれるか分からないなんぞただの言いわけにすぎない。それをセベクに伝えたところで仕方のないことだ。

「これから用意するのも変だけどさ。欲しい物、聞いてもいい?」

一拍置いて、セベクがまた息を吐いた。

「何でも、いいのか?」

セベクのその言葉に顔を上げると、セベクは眉を寄せたまま怖い顔で私を見ていた。

「あんまり高価な物とか、希少な物とかは、困るかな」

「それだと何でもとは言わないだろう」

「確かに。そうだね」

 再び、沈黙が流れる。私は当初考えていた物を頭の中に浮かべながら問いかけた。

「若様シリーズだったら、どうかな?」

「若様シリーズ?」

「若様のブロマイドとか、若様のカレンダーとか、」

「若様のサイン入りブロマイドだと!?」

その瞬間、セベクの瞳孔がカッと見開いた。というか、サイン入りとは言ってないんだけど。

「僕が欲しいのは、」

 セベクにキッと睨まれた私はつい身構えた。一歩、セベクが私に近寄るので、私は思わず後退りした。

「何故逃げる!?人間!!!」

「え?いや、その。つい」

「つい、だと!?」

再び、ずいとセベクが近づいた。私もさらに後退る。縮まらない距離にセベクが謎の呻き声を上げた。

「逃げるな!!!」

「そう言われてもなあ」

「いいから黙ってそこにいろ!!!!!」

えー、と思いつつも足を動かすが、それよりも先にズンズンと歩みを進めたセベクが私との距離を詰めた。セベクにガシッと、力強く両肩を掴まれたせいで私の身動きができなくなった。

「僕が欲しいのは、祝福だ!!!」

「若様からの?」

「何故そうなる!?」

あまり近い距離で騒がれると耳が痛い。そもそも、セベクの声は大きいから困る。

「それじゃあ。誰からの、」

私の言葉はそこで止まった。さらに距離を詰めたセベクが、私の頬に自らの唇を押しつける。ほんの一瞬だけ熱を持ったそこから、すぐにセベクが離れていった。

「何でもいいと言ったのはおまえだからな。もう、しない」

 パッと離れたセベクがぐるりと私に背を向けてズンズンと大股で歩いて行った。残された私は、あまりにも突然のことで瞬きを繰り返した。だけど、やられっぱなしも悔しくて、私は急いでセベクを追いかけて腕を掴んだ。

「私からの、祝福」

セベクの腕をぐいっと引っ張って、私よりも高い位置にある色白の頬に背伸びして唇を押しつけてやった。驚いた表情を浮かべたセベクがすぐに私を見下ろしてくる。

「破廉恥だぞ!!!人間!!!」

と、それはそれは顔を真っ赤に染めてセベクが言ってくるので、私は声を出して笑った。どの口が言うのかと思いながら。
 私の顔も、セベクに負けないくらい赤い。

2023.03.17