Bookso beautiful yet terrific.

 八九と邑田と在坂が桜國幕府に引き取られ、そして将軍の妹であるお嬢様が彼等のマスターになってからずいぶんと経ってからのことだった。
 今年も明日で終わるなあと思っていた12月30日の22時頃、寛いでいた八九の自室が突如開かれたのである。

「八九!明日の夜、カウントダウンライブに行きますわよ!遅れずに来なさい。いいですわね?」

「な!!!勝手に開け、じゃない!いや、待て!!!ライブ!?はあ!?」

「遅れたら許しませんわ。それじゃあ、また明日。ごきげんよう」

「ちょ!?おい!!!」

一方的に言ってのけたお嬢様は再び扉の向こうへ消えてしまった。残された八九はただただ困惑するだけだった。


 12月31日の23時45分。八九はお嬢様と一緒に東京ドームで開催されるカウントダウンライブにいた。正しくは、邑田と在坂も一緒に。八九が周りを見回すと、何処を見てもたくさんのファンで溢れていた。みんなそれぞれ推しの名前が書かれたうちわを手に持っている。

「きゃあああ!素敵ですわ!」

八九の隣にはうちわをぶんぶん振って熱狂するお嬢様の姿があった。お嬢様のうちわには、ゆっちLOVEの文字がある。ちなみに、八九と邑田と在坂の手にあるうちわにも同様の文字が記されていた。

「ん?あれは信長公記の信長ではないか?のう、在坂」

「本当だ。あっちには秀吉もいる。ドラマの時と雰囲気が違うから分からなかった。役者は凄いと在坂は思う」

「向こうにいるのはクロサギに出演していた俳優ではないかのう?」

「かぐや様とバトルしていた相手と同じだ。邑田、よく気がついた」

「わしの目は誤魔化せぬぞ」

ほっほっほっと笑う邑田と、アイドルグループのメンバーを1人1人じっくりと見る在坂の姿に、八九は苦笑いを浮かべた。みなさん楽しそうで何よりと思いながら。
 ちなみに、八九がいる場所は2階席の随分と奥まった端っこの方だった。お嬢様曰く、カウントダウンライブは年に一度何組ものアイドルグループが一同に会する場なので、このチケットを獲得するには相当な倍率の抽選で決まるとのことだ。

「こればっかりは運ですわね。ただ祈ることしかできませんの!だから、このチケットを獲得できたのは奇跡ですのよ!」

と、出かける前にお嬢様が念を押してきたのである。ところで、このチケットを応募するにはアイドルグループの会員でないと資格がないはずだが、という疑問に八九は気がついたのだけど、その答えは邑田と在坂が教えてくれた。

「決まっておろう。八九も会員だからじゃな」

「勿論。邑田と在坂も会員だ。案ずるな」

というわけである。
 さて、と思いながら八九は自分達の席から遥か離れた先にあるステージを見た。カウントダウンがいよいよ始まる。今年も、年が明ける。八九は頭の中に色々なことを浮かべた。お嬢様との出会いから、桜國幕府での日常、士官学校へ入学したり、そしてまた日本に戻りお嬢様の銃となったことを。

「なあ、お嬢様。来年も、」

「あら、ごきげんよう」

よろしくと言いかけた八九の声を遮り、お嬢様が自分と少し離れた先にいる女性グループに声をかけた。というか、その女性の周りにはサングラスをかけた男しかいないけど。

「まあ!ごきげんよう!お互いに楽しみましょうね」

「ええ!」

八九はお嬢様と相手の女性との会話を眺めながら目を丸くする。そんな八九に在坂が耳打ちしてきた。

「八九。きちんと挨拶するべきだと在坂は思う。相手はお嬢様のご学友だ」

「ご学友?」

すると、邑田もこっそりと耳打ちしてきたのだった。

「皇女様だぞ。失礼のないようにせねばのう」

「はあ!?」

八九の素っ頓狂な声は、ちょうど年を明けた歓声によってかき消された。八九は唖然とする。だけど、皇室の人間も幕府の人間も関係なく2階席の隅っこにいる現状に、八九は笑うしかなかった。

「本当。お嬢様には驚かされるわ」

 そう溢す八九の横顔は、言葉のわりにはずいぶんと楽しそうだった。

2023.03.28