
Bookso beautiful yet terrific.
ある春の土曜日のことだった。
今日はとてもぽかぽかとあたたかくて心地良かった。そのせいで、私はオンボロ寮の談話室のソファに寝転びすっかり眠り続けてしまったのである。おかげさまで、目が覚めたのがとっくに暗くなった夜だった。
そして現在、日付を既に跨いだ真夜中。昼間たっぷり寝てしまった私は、残念ながら眠れず談話室のソファにいた。グリムやゴースト達を起こさないようにできるだけボリュームを下げてテレビを見たり、本を読んだり。それでも、1人で過ごすには正直退屈だなあと思っていた。
ちょうどその時だった。オンボロ寮の談話室の窓にコツコツと叩く音が響いた。そちらを見ると、カーテン越しに人影も見える。その見覚えのある人影に、不審者ではないと判断した私はカーテンを開けて窓の前に立ってみせた。
窓越しに私の姿を見つけたジェイド先輩はにっこりと微笑んでみせた。それから窓の鍵を指差して、開けて、と口を動かした。私は、特に断る理由もなかったので鍵を外して窓を開ける。すると、ジェイド先輩は遠慮なく談話室の中に足を踏み入れた。
「こんばんは。ずいぶんと夜更かしですね?」
「昼間たくさん寝てしまって眠れないんです。ジェイド先輩も、こんな時間にどうしたんですか?」
「僕も、今日は目が覚めてしまいまして。それで散歩に出かけていたら、オンボロ寮の灯りを見つけたもので。つい」
ジェイド先輩の眠れない事情を聞きながら私はジェイド先輩にソファに座るよう促した。私に促されたままジェイド先輩がソファに座る。その間に、私はカップにあたたかいハーブティーを注いで、それをジェイド先輩が座る前にあるテーブルの上に置く。私はテーブルを挟んだジェイド先輩の向かい側のソファに座りながら再度口を開いた。
「正直に言うと、ジェイド先輩がオンボロ寮に訪ねてきてくれてよかったです」
「おや。ご迷惑だったのでは?」
「眠れなくて退屈だったんですよ。だから、こうして話相手ができて嬉しくて」
「では。あなたが眠るまで、たくさんお話しましょう」
そう言ってジェイド先輩が頬を緩ませた。
ジェイド先輩とは特別親しい間柄ではないが、ジェイド先輩の話の引き出しの多さのおかげで会話が途切れることはなかった。山を愛する会の活動内容から始まり、モストロ・ラウンジにやって来るお客さんの話、そして私がジェイド先輩との会話に慣れてきた頃に、フロイド先輩とアズール先輩との昔話をしてくれた。
やがて、時間は過ぎ、夜が明ける頃の時刻となった。にこにこ顔で話すジェイド先輩とは対照的に、私の目はうつらうつらとしていた。
「流石に、瞼が重くなってきたようですね」
「すみません。ジェイド先輩のお話中なのに」
「いえいえ。そろそろ、夜が明けそうですし。僕もようやく眠くなってきました」
すっと立ち上がったジェイド先輩が私の座るソファに移動し、私と1人分離れた場所に座り直した。
「少しだけ、ここで瞼を閉じても構いませんか?朝には帰りますので」
「それだったら、ちゃんとベッドで寝た方がいいです。空いている寝室がありますのでそちらに案内いたします」
「せっかくのお誘いですが、またの機会にいたします。今は、このままで。ほら。あなたも限界でしょう?」
クスッと笑うジェイド先輩の声だけが耳に届いた。確かに、私の瞼はほとんど開きそうにない。
「おやすみなさい。良い夢を」
その言葉を最後に聞いて、私は意識を手放した。
目が覚めると、窓の外はぽかぽか陽気に包まれていた。辺りを見回すと、ジェイド先輩の姿はない。あれは夢だったのだろうか。そう首を傾げた私は、テーブルの上にある空っぽのカップを視界に入れた。
それは、紛れもなく、春暁にジェイド先輩がオンボロ寮にやって来た証だった。
2023.03.25
春暁|女監督生受け版ワンドロワンライ