Bookso beautiful yet terrific.

 朝、登校するためにエースとデュースとグリムと一緒にメインストリートを歩いていると、突然目の前に学園長が現れた。

「お邪魔しますよ!!!」

文字通り、私達の進路を邪魔するように立ち塞いだ学園長が、自らの右手に4本の鍵を並べるように握ってみせてきた。

「これはオンボロ寮にあるゲストルームの合鍵です。最近気づいたのですが、学園長室の引き出しの奥の方にずーっとあったらしく。というわけで、私が持っていても仕方がないので、あなたに渡しておきますね。私、優しいので」

「合鍵?4本も?ずいぶんとたくさんありますね。というか、今の今まで忘れ去られた鍵を渡されても」

「忘れてたわけではありませんよ!気がつかなかっただけです!ほら、どうぞ!あなたに万が一のことがあったら大変です。その合鍵は、どなたか信頼を置けるご友人に渡したらいかがでしょう?」

私は学園長の言葉に両隣と足下にそれぞれいるエースとデュースとグリムの顔を見る。それから再び学園長に視線を向けた。

「合鍵を渡す相手は、私が決めても?」

「ええ。勿論いいですよ」

「ならば。学園長とトレイン先生とクルーウェル先生とバルガス先生にお渡しいたします。有事の際は、よろしくお願いいたしますね」

は?とその場にいる全員の声が重なった。

「今の話の流れでいくと、合鍵を受け取るのって俺とデュースじゃね?」

「確かに。僕とエースが預かれば、監督生に何かあったら真っ先に駆けつけてやれるしな」

「つーか、オレ様にも鍵を寄越せー!いっつも親分を差し置いて子分が管理するのはおかしいんだゾ!」

大層不満気な顔で抗議してくるエースとデュースとグリムの姿に、私も学園長も気にはしていない。

「この2人と1匹に合鍵を渡したら、すぐに失くしてしまいそうですしねえ」

ぼそっと呟いた学園長の言葉に私も同意する。
 そもそも、元々オンボロ寮は以前も今も、学園の物だ。その場所を、私とグリムが借りているに過ぎない。だったら、ゲストルームの合鍵と言えど私が持つより学園長もしくは先生達に持ってもらった方がいいだろう。それこそ、合鍵があれば、有事の際に先生達がいち早く駆けつけてくれるので安心だし。

「いやいやいや!!!おかしいでしょう!?普通は、将来の夫である、この僕に真っ先に渡すべきでは!?」

 そう言いながら、アズール先輩が大股でやって来た。いつのまにメインストリートに現れたアズール先輩に対し、グリムが間髪入れずにツッコミを入れた。

「おまえと子分は将来の約束もしてねーゾ。寝ぼけてんのか?」

「そうでした。まだ家族計画も立てていません。早いところ、話し合いをしなければなりませんねえ」

「ぜんっぜん聞いてねーんだゾ、こいつ」

辛辣なツッコミをグリムにされても、残念ながらアズール先輩の耳には届かないようだ。私は、学園長に向き直り、とにかくもう一度、ゲストルームの合鍵の件はお断りすることにした。

「防犯的な面も考えて、引き続き学園長に管理していただけませんか?何処かの棚にしまい込んでも構いません。学園長室なら安心だし。それに、万が一鍵を紛失して、オンボロ寮内に無断で誰かに入られても怖いですから。あの時みたいに」

「あの時?」

私の言葉にエースが聞き返す。私の代わりに、学園長が思い出したように口を開いた。

「解除魔法を使って戸締りをしっかりとしたオンボロ寮内に男子生徒が侵入してきた件ですね」

「はい。あの時は、すっごく怖くて学園長に泣きついたほどでした」

「勝手に侵入した男子生徒が浴室まで足を踏み入れてきて、それを入浴中だったあなたがバスタオル一枚だけで相手の男子生徒を完膚なきまでにボッコボコに殴り飛ばしたあと、デッキブラシで遠くへ打ち上げましたね。私に泣きついたのは全てが終わってからでした。というか、私に泣きついてきたのは寧ろあの加害者の方でしたけど」

「あれは本当に怖かったなあ」

「それ、二刀流でのび太くんを撃退したしずかちゃんの言う台詞ですか」

 一通り話を聞いたエースとデュースが無言で私の顔を見た。何か言いたそうだけど。ふと、それまで黙っていたアズール先輩が顔を上げて、眼鏡のフレームを直した。

「なんとも羨まし、いえ、なんともけしからん話でしょう。僕、そういう不届者を許せるほど慈悲深くないので」

「今、羨ましいって言いかけたんだゾ」

「まさか!バスタオル一枚のしずかちゃんに殴られたのび太くんになりたいなんぞ微塵も思ってませんよ!海の魔女に誓って」

グリムの冷たい視線なんぞ全く気にせず、アズール先輩はキラッキラした微笑みで言ってのけた。それを私は見なかったことにして学園長に向き直った。

「というわけで。学園長に、オンボロ寮の敷地内全てに無断で入って来られないよう防衛魔法をかけていただいてますし。合鍵は必要ないです」

「そうですか?あなたがそれでいいのなら」

私の申し出を聞いた学園長が右手に持っていた合鍵をパッと消してみせた。その瞬間、アズール先輩が悲鳴を上げた。

「な、何ということを、」

「オメーに渡すよりずっといいと思うゾ。な?エース?デュース?」

地面に膝をついて謎の雄叫びを上げるアズール先輩に対し、グリムに同意したエースとデュースは苦笑いを浮かべた。
 こうして。オンボロ寮のゲストルームの合鍵は以前と変わらずに学園長の管理下に置かれたままになりましたとさ。

2023.03.23