Bookso beautiful yet terrific.

 にっこりと綺麗な微笑みを貼りつけたエンフィールドがテーブルを挟んだ私の向かい側の席に座っている。一方、スナイダーはシャツとズボンだけのだらしない装いで私のベッドに寝転んでいた。そんな状況に私は眉を寄せつつもカップに注いだ紅茶に口をつける。何故だろうか。私の自室にいるはずなのにちっとも落ちつけない。私は小さく息を吐いてからカップをテーブルの上に置き、それから端の方に纏めてあった課題と筆記用具を広げながら口を開いた。

「私、これから課題やるの」

おわかりだね?という続く言葉はそれぞれの返事にかき消されてしまった。

「はい。一緒にやりましょう」

「勝手にしろ。終わったら起こせ」

その返事が示すものは、つまり、退出拒否である。前を見るとエンフィールドが持参した自らの課題と筆記用具を開き、後ろのベットではスナイダーが我が物顔で私の毛布を自分にかけた。

「そうだ!勉強の合間に糖分を補給しましょうか。確か、そこの戸棚の中にクッキーが」

そう言ったエンフィールドがおもむろにその場から立ち上がり、私の部屋に設置してある戸棚の中からいくつかのクッキーを取り出してはテーブルに戻って来た。

「どうぞ、お召し上がりください」

にこりとエンフィールドが言ってのけるが、もう一度言うけどここは私の部屋であって、エンフィールドの部屋ではない。

「ちっ。少し冷えるな」

ベッドに陣取るスナイダーに関しては、リモコンを操作して暖房の温度を調節しているではないか。何を勝手に快適に寛いでいるのさ。
 再び、私は溜息を吐く。今度はあからさまに深く長い溜息を。そんな私の様子にエンフィールドは首を傾げ、スナイダーもベッドの上から声をかけてきた。

「何かお悩みですか?それならば、僕にお任せを」

「他の奴等とばかり戦闘に行くから疲れたのだろう。少し休むといい」

エンフィールドは掌を胸に当ててにこりと笑う英国紳士そのものを見せつけるし、スナイダーはベッドの上を軽く叩いて私を呼んでいる。
 ちょうどその時だった。コンコンと扉がノックされるので私が顔を上げると、扉越しに声が響いてきた。

「マスター!恭遠が呼んでる。だから迎えに来た」

「それと。エンフィールドとスナイダー知らね?あいつらも呼ばれてるんだけど」

2人ともここにいますけど。そう思いながら扉の向こうにいるマークスとライク・ツーに返そうと口を開いた瞬間、音もなく後ろから伸びてきた右手が私の口を塞いだ。驚いて身動きを取ろうとすると、瞬時に左手も伸びてきて私の身体を抱き竦めた。視線だけで後ろを見るも、椅子に座る私に合わせるように屈んでいるのかスナイダーの肌けた細い首筋しか見えなかった。反対に、前を見ると、私と目が合ったエンフィールドは、にこりと笑みを浮かべてから人差し指を自らの唇に当ててみせた。

「マスター。いないのか?」

マークスの問いかけと同時にガチャリとドアノブが回るが、ガチャンと音がするだけで扉は開かなかった。そこで私は、開けっ放しのはずだった自室に鍵がかかっていることにようやく気づく。扉をよく見ると、ドアロックまでかけてある徹底ぶりだった。

「はあ?マジでいないの?」

今度はライク・ツーの声と共に、ガチャガチャとドアノブが回る。だけど、それ以上扉が動くことはなかった。

「仕方ねえな。緊急じゃねえって言ってたし、とりあえずその辺探してみるか」

「マスター。俺に黙って何処かに行くだなんて」

「あいつにもプライベートくらいあるだろ」

その言葉を最後に、2人分の足音が扉の向こうへ遠ざかっていった。
 静かになった瞬間、エンフィールドが音もなく椅子から立ち上がり、そのまま扉に耳をつけて様子を窺う。それから扉から離れて再びテーブルに戻ってきた。

「さあ。課題、始めましょうか」

何事もなかったかのように微笑んだエンフィールドが椅子に座る。それを合図にスナイダーも私から手を離し、私の隣にある椅子に腰かけた。

「マークス達が呼んでるから行かないと。それに、エンフィールドとスナイダーも探されてるよ」

「緊急ではないと言っていた」

私の言葉に間髪入れずに返してくるスナイダーに私は眉を寄せるしかない。スナイダーに何を言っても無駄な気がしてエンフィールドに視線を合わせるけど、エンフィールドも流石スナイダーの兄銃らしく同じことを言うだけだった。

「緊急ではないのなら、僕達がいなくても問題ありませんよ。ええ!」

普段改造する改造しないで喧嘩する2人のくせに、結託してほしくない時に協力関係になるのだから困る。私はもう一度溜息を吐く。仕方ないと思いながらしばらくこの兄弟銃と過ごそうと諦めた時だった。
 扉の向こうから複数の足音が響いてきた。何事かと思いながら私が顔を上げると、同じように足音に反応したらしいスナイダーが舌打ちして椅子から立ち上がった。

「おい。エンフィールド」

そう言いながら、スナイダーの左手が回されて私の身体が抱き寄せられる。少し屈んだスナイダーの肌けた胸板に顔を押しつける形になり、私は目を丸くするしかなかった。

「分かってるよ。スナイダー」

スナイダーに返事したエンフィールドも椅子から立ち上がる音がしたので、私は視線だけそちらを向ける。すると、エンフィールドはあろうことか、自らのタイを外してシャツ一枚になり、さらにいくつかシャツのボタンを乱暴に外して素肌を晒してみせた。

「え?なんで、」

「おい」

脱いでるの?という疑問はスナイダーの右手の親指が私の下唇を撫でたせいで何も言えなくなった。

「良い子にしてろよ。なあ、マスター?」

ニヤリと微笑んだスナイダーと至近距離で目が合った。背中に冷たい汗が伝う。そして、私の嫌な予感が的中した。
 複数の足音が私の部屋の前で止まった。また、ガチャガチャとドアノブを回す音がした。しかし、今度は何回か回すことなく静かになる。そして、次の瞬間、私の部屋の扉が銃弾によって吹き飛んだ。

「マスター!!!!!助けに来たぞ!!!!!」

その声に視線だけで見ると、煙の向こうから銃を肩に担いで大股でやって来たマークスの姿があった。続いて、ガシャーンと室内の窓ガラスが割られる音がしてそちらを見る。すると、そこには銃を構えたまま割れた窓から室内に素早く入り込むライク・ツーがいた。

「やっぱりいたか。どうせそいつらにロクでもないことを、」

そこで、ライク・ツーの言葉がぴたりと止む。それはマークスも同じようで、室内にいる私達を見回してから目を見開いた。

「彼女達は見つかったかい?にわかには信じがたいが、あの2人がそこまで何かやらかすとは思いたくないんだけど」

と、言いながら恭遠教官がマークスの後ろから部屋の中に入ってきた。そして、マークス同様に、私達の姿を見て固まる。そんな言葉を失って固まる3人に対してエンフィールドが相変わらずにこやかに微笑んだのだった。

「これはこれは、みなさんお揃いで。ですが、僕達、今はご覧の通り取り込み中ですので、お引き取りをお願いできますか?」

私の背後に立ったエンフィールドが、両手を伸ばして後ろから私に触れた。するすると動いた指が私の制服のボタンを一つ外す。

「というわけで、さらに取り込むつもりだ。意味、分かるよな?」

そう言いながら、スナイダーの指が私の唇から動き首筋を撫でていった。
 私はようやく状況を理解した。半裸の男達に囲まれた私の姿はとてつもなくまずい立場にある。

「ま、待って!!!誤解!!!誤解だから!!!」

しかし、私の訂正がマークスの耳に入ることはなかった。

「ま、マスターから離れろおおお!!!!!」

涙を流しながら、マークスは当たりに銃弾の雨を降らしていく。一方、それまで静かだったライク・ツーも、目をギラギラさせながら銃を構え直した。

「こっの!!!ふっざけんな!!!色々とわけわかんねー兄弟のくせに!!!!!」

狭い部屋に飛び交う銃弾の嵐に、恭遠教官はただただ深い溜息を吐くのだった。


 その後、士官学校では私とエンフィールドとスナイダーによるただれた関係の噂話で持ち切りとなるのだけど、当の2人は何処吹く風。マスターとはどういう関係?と周りから聞かれるたびにエンフィールドとスナイダーは何食わぬ顔して答えるのだった。

「詳しくは言えませんが、みなさんにはあまり教えて差し上げられない関係ということですよ。ええ!」

「俺があいつの部屋で裸になっても構わない関係だ。あとは、分かるよな?」

この答えのせいで、さらなる誤解が積み重なっていき私の悩みの種になる。
 しかし、この一連の騒動がエンフィールドとスナイダーの策略によるものだと私が知るまで、そう時間はかからなかった。

2023.03.29