
Bookso beautiful yet terrific.
「好きです!俺と付き合ってください!」
「はい!私でよければ喜んで!」
ある日の昼休みのことだった。私はぼけーっとしながら中庭に繰り広げられる青春を2階の廊下の窓から見下ろしていた。
「いいなあ」
つい、言葉が溢れる。将来士官になるべく勉強中の身ではあるが、それでも学生に代わりはない。恋もしたいし、告白もしたいしされてみたい、好きな人とデートだってしてみたい。残念ながら、恋なんぞまだまだよく分からないのだけど。
そんなこんなで、校舎に予鈴が鳴り響く。午後の授業が始まるとハッとした私は、慌てて教室へ戻ったのだった。
あれから数日経った放課後。日直の当番が終わった私は帰り支度をしようと教室に戻る。すると、私の机の上には、私宛の真っ白い封筒が置かれていた。何だろうと思いながら封筒を手に取ってまじまじと眺める。しかし、ピンと来た私はすぐに封を開いて中から便箋を取り出した。
放課後、あなたに伝えたいことがあります。中庭に来ていただけませんか?あなたが来るのを、ずっと、待っています。
差出人は書いてないが、これは紛れもなくラブレターというやつだった。流麗な筆跡が紡がれる文字に、私の胸が高鳴った。
どんな人だろう?きっと、素敵な人に違いない。でも、私が、恋がまだよく分からないと打ち明けたら幻滅されちゃうかもしれないなあ。
期待と不安。両方を抱えた私は、手紙と鞄を持って中庭に向かった。
中庭に着くと、誰の姿もなかった。夕暮れ独特のオレンジ色の世界がそこにあるだけ。幻想的な雰囲気に、まさに青春を彷彿させた。
「待たせてごめんね」
私の背後から、草木を踏みしめる音が響いた。穏やかな声音にドキドキしながら私は振り返ってそちらを見る。その瞬間、私の心が静かになった。
「おい。もっと嬉しそうな顔をしたらどうなんだ。ん?」
「違うよ、スナイダー。よく見てごらん。マスターの頬、赤く染まってる」
「なんだ。照れてるだけか」
穏やかな声音はエンフィールドのものだった。そして、その隣にはスナイダーの姿もある。私は、目の前に現れた2人と真っ白い封筒を交互に見る。そして、瞬時に気づいた。
「これを書いたの、エンフィールド?」
「書いたのは僕ですけど、封をしたのはスナイダーです」
私はあからさまに眉を寄せた。せっかく、私にも青春が来たと思ったのに。
「まあいいか。それで、どうしたの?」
気を取り直して2人に向き直る。わざわざ手紙を渡してきたのだから、余程の用事なのだろう。
不意に、エンフィールドとスナイダーが私との距離を詰める。つい、私が一歩後ろに下がる前にそれぞれ手が伸びてきて私の両手を繋いだ。私の右手にはエンフィールドの右手が、私の左手にはスナイダーの左手が重なる。逃げ道が消えたと思いながら2人を見上げると、私と目が合ったエンフィールドとスナイダーは穏やかに目を細めた。
「あなたが好きです」
「おまえが好きだ」
それは驚くほど柔らかくて熱を孕んだ声音だった。見た目は違うのに、仕種も声音も兄弟揃ってよく似ている。しかも、彼等の背後から夕陽を照らしてくるせいで、その雰囲気に呑まれるように私の顔に一気に熱を集めた。
「何を、言ってるの。そんなの、今更、」
と、返しつつも、エンフィールドとスナイダーの真意に気がついてしまった。人間の青春劇の真似事までやるのだから、2人の言う好きは、貴銃士とマスターのそれではなく好きな人を想うそれなのだろう。
私は照れくさいなんぞの言葉を呑み込んでエンフィールドとスナイダーをまっすぐに見返す。はぐらかしてはいけない。直感した私は正直な気持ちを口にした。
「エンフィールドとスナイダーの気持ちは嬉しいけど。私、恋ってよく分からないの。それに、私は1人しかいないよ。だけど、どちらかを選べって言われたても困るしさ」
私の言葉に、エンフィールドとスナイダーが兄弟揃って目を丸くさせる。それからお互いに顔を見合わせてから声を出して笑った。
「あなたが恋を知らなくても構いません。僕達が、これからじっくりと教えて差し上げますよ。残念ながら、僕達は人間としてはまだまだ未熟です。ですが、銃としては長い年月を過ごしてきたので恋愛についてはあなたよりもずっと大先輩です。だから、ご安心を」
エンフィールドの言葉と共に右手の指先に力が込められる。次に、左手の指先にも力が加わった。
「どちらを選べとは言わない。おまえが欲張りになって、俺とエンフィールドを誑かせばいいだろう。その代わり、俺達2人分の愛をしっかりと受け止めろ」
「いや、それって、」
あきらかに困惑する私なんぞ気にせず、私の指先がそれぞれ引っ張られて2人分のキスが落とされた。指先からしっかりと伝わってくるエンフィールドとスナイダーからの想いに、私は口を引き結ぶ。
兄弟2人分の愛を受け止めるのは大変だなと思った。
2023.03.29