Bookso beautiful yet terrific.

 ナイトレイブンカレッジに通い続けて、いつのまにか18歳になる年を迎えた。相変わらず、私は元の世界に帰れずにツイステッドワンダーランドにいる。
 さて。これから4年生への進級に備えて、やるべきことがたくさんある。3年生の今のうちにある程度学外研修先について情報を集めておかなければならない。それが、研修先に行く前に元の世界へ戻ったとしても、とにかくたらればの話より今現在の状況の方が大事。
 そんなこんな考えながら私は学校に登校するためメインストリートを歩く。グリムは何故かクルーウェル先生のお手伝いに駆り出され、エースとデュースも部活の朝練のためいない。たくさんの生徒達で騒がしいメインストリートを、いつもは同じく騒がしい友人達と一緒に歩くので、1人きりで歩くのは不思議な気分だった。
 もうすぐ校舎が見えてきた時のこと、それまで流れに沿って歩いていた生徒達が急に左右に別れ始めた。私は思わず首を傾げるも、歩みを止めず進む。すると、メインストリートのど真ん中で陣取る見慣れた姿を見つけて私は足を止めるはめになった。

「おはようございます、監督生さん。今日は素敵な天気ですね」

 にこりと微笑むアズール先輩の姿に、そういえばこの状況前にもあったなあと思い出しながら挨拶を返した。

「おはようございます」

私が一礼すると、アズール先輩はにこにこ笑みを携えたまま私の元へやって来る。それから後ろ手にあったものを前に出し、片膝をついた。

「18歳を迎えると聞いたものですから。お迎えに上がりました」

ばさりと私の目の前に差し出されたのは鮮やかな赤色をした薔薇の花束だった。というか、この薔薇の花束、ずいぶんと大きい気がする。

「綺麗ですね。その、結構な量があるような気が?」

「999本ありますので」

即答するアズール先輩の言葉に、居合わせた生徒達が振り向いて、多いな!!!とツッコミを入れた。勿論、私も同じ気持ちである。

「色々とお聞きしたいこともありますが」

「ええ。何でもどうぞ」

「あの。学外研修中では?」

そもそも、アズール先輩は現在4年生だ。学外研修の真っ最中である。しかし、その疑問はアズール先輩が素晴らしい笑顔で答えてくれた。

「一つ目の研修が昨日で一旦終了しましたので。今日は学園長にレポートを提出しに来ました」

「なるほど。そういうことでしたか」

「残念ながら。また明日から別の研修先に向かいますので。あなたにお会いできるのは今日だけなんですよ」

今度は悲しそうに瞼を伏せるアズール先輩に対し、私は何とも言えない空気になった。

「アズール先輩。そろそろ、膝をつくのは、」

次に気になったことを口にすると、アズール先輩はああと思い出したように顔を上げ、再び薔薇の花束を私に差し出した。

「では。これを」

「本当によろしいんですか?」

「ええ。勿論。あなたのために用意したのですから」

まあ、せっかくだし。そう思いながら私は薔薇の花束に手を伸ばして両手で抱えた。というか、これ尋常じゃないくらい重い。そのせいで、私の足下がふらりとよろけると、アズール先輩は瞬時に立ち上がって薔薇の花束と私の背中に手を添えて支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい!ありがとうございます」

アズール先輩の手は意外にもびくともしなかった。見かけによらず力持ちなんだなあと思う。

「では。今度は僕からあなたに質問を」

 その態勢のまま、アズール先輩が私の目をじっと見つめてきた。何だろうと瞬きすると、アズール先輩が一拍置いてから口を開いた。

「僕は今日、あなたのお友達をやめに来ました。そして、あなたは僕からの贈り物を受け取ってくださいました」

アズール先輩の真剣な目が私をまっすぐに射抜く。

「これは、その返事と受け取ってよろしいですね?」

アズール先輩の質問に私は言葉に詰まった。確かに、薔薇の花束を受け取りはしたけど、それとお友達をやめるの何が関係あるのか分からなかった。

「ごめんなさい。仰る意味が、」

「はぐらかさないでください。僕は本気です」

ずいとアズール先輩の顔が私に近づいた。私は困惑するしかない。

「つまり、お付き合いする、ということですか?」

「お付き合い?そんな単純な話ではないでしょう」

ぎゅうと、私の背中を抱くアズール先輩の手に力が加わった。さらに近くなったアズール先輩との距離に、私の頬がほんのりと熱くなった。

「やっと。表情を変えてくれましたね」

ふっと、アズール先輩の表情が緩んだ。眉尻を下げて、心底ホッとしたように微笑むアズール先輩の姿に、こんな顔もするのかと思った。
 すっと、アズール先輩が私から離れた。支えを失った薔薇の花束が私の手から滑り落ちそうになる。だけど、アズール先輩が瞬時にマジカルペンを振って、薔薇の花束に魔法をかけてくれたおかげで、今までとは信じられないくらい軽くなり私でも持てるようになった。そんな私の姿を見て、アズール先輩は満足気に目を細める。それからいつもの調子で言ってのけた。

「お迎えに上がったのですが、今回はこれで良しとしましょう。ようやく、お友達の僕にも希望が見えてきましたので」

それでは。そう最後に言い残したアズール先輩は私に背を向けて足早に去って行った。
 残された私は、軽くなった薔薇の花束をまじまじと見る。

「結局、お友達のままでいいのかな?というか。迎えに来たって何さ。アズール先輩は相変わらずだなあ」

つい、小さく笑ってしまう。とてもいい香りのする薔薇の花束を抱えて、私は再びメインストリートを進むのだった。
 ちなみに、私が999本の薔薇の意味を知るのは、教室にやって来て薔薇の花束を見つけたクルーウェル先生に教えてもらうまでお預け。

2023.03.30