
Bookso beautiful yet terrific.
教室から見た窓の外の景色に、目を疑った。そこには任務帰りだと思われるブラウン・ベス、エンフィールド、スナイダー、シャルルヴィル、シャスポー、タバティエール、ドライゼの姿があった。僕は一度瞼を伏せ、再度開ける。輪の中にいるブラウン・ベスはあの気難しい表情ではなく満面の笑みを浮かべていた。その瞬間、あれがブラウン・ベスではなくジョージだと気づき、僕は窓から視線を外した。
次に見つけた先に、恭遠がいた。恭遠が教室に入ろうとした時、早足で廊下を歩いて来たらしいカトラリーが恭遠に声をかけた。すると、カトラリーの後ろからやって来たケンタッキーが元気よく恭遠に挨拶をする。
その光景を、僕はぼんやりと眺めることしかできなかった。
「カール様?いかがなさいましたか?」
聞こえてきた声に僕の肩が一瞬びくりと跳ねた。声の主を見ると、ローレンツが心底心配した表情でこちらを見ていた。
「いや。何でもないよ。少しぼーっとしていてね」
そう言いながら、僕は緩く首を横に振った。過去の記憶と重なりそうになるのをゆるゆると拒絶するように。
「本当に大丈夫でしょうか?少し、お休みになられた方がよろしいと思いますが」
「大したことではないよ。心配かけてすまないね」
唇に弧を作ってみせると、ローレンツがまだ疑わしそうな目を僕に向けていたが、僕がこれ以上何も語ろうとしないのを察して追及しなかった。
「そろそろ次の授業が始まります」
「そうだねー。学生らしく恭遠教官の講義を受けるのも悪くないかな」
つい、茶化した声でローレンツに返した。そう。僕は今、皇帝であり学生だと自分を納得させるように。
「カール。ローレンツ。来てくれていたんだね。挨拶が遅れちゃってごめんね」
僕とローレンツが振り向くと、数多の貴銃士を束ねる彼女が、眉を寄せて苦笑いを浮かべていた。
「本当はオーストリアから2人が到着するのを出迎えたかったんだけど、任務が入っちゃって」
「ああ。そんなことか。君が忙しい立場なのは俺とカール様も承知だから気にしなくていい」
「ありがとう。そう言っていただけると救われる」
彼女とローレンツが会話する姿に、僕の脳裏にあの人の姿が浮かんだ。
色白の右手に薔薇の傷を宿し、常に微笑みを絶やさなかったあの人。曲者揃いの大勢の貴銃士に振り回されるたびに、あの人はいつも眉を下げで苦笑いを浮かべていた。しょうがないなあ。それがあの人の口癖だった。
ふと。柔らかい笑い声が僕の耳に届き、過去から現実に引き戻された。
「もう。しょうがないなあ」
ローレンツに何か言われたらしい彼女は、眉を下げて苦笑いを浮かべながらそう口にした。似ても似つかないのに、まるで、あの人のようだった。
つい、彼女から視線を外して窓の向こうを見た。そこには先程いた貴銃士達はもういなかった。7年前、皆が銃として眠りについた日と同じように。そんなことを考える己を嘲笑った。
「あ。もう時間だ。私、教室に戻るね」
その声に視線を戻すと、彼女がひらりと手を振ってから背を向けたところだった。ありがとうカール、さよなら。7年前に、そう言って別れを告げたあの人の姿が彼女と重なった。
ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、色白の右手を取ろうと手を伸ばす。だけど、すぐに我に返った僕は伸ばした手を下ろした。
「ローレンツ」
「はい。カール様」
「今日の昼食は何にしようかと思ってねー。ローレンツのお勧めを聞こうかな」
「カール様が、俺のお勧めを参考にしてくださるなんて!」
僕の知るローレンツとは違う態度に、僕の胸中は思ったよりも穏やかだった。
レジスタンス時代はとっくに終えた。一応世界は平和になった。だけど。欲を言うと、あの頃が恋しくなる。それでも。それでも。それでも。
ゆっくりと瞼を伏せる。7年経っても色褪せない、あの人が僕に手を差し出した姿を必死に胸の奥に隠して、僕は彼女の銃でいようと思う。
2023.04.06