Bookso beautiful yet terrific.

 ジェイド先輩はあの日以来、本当に私の初めてを全て欲しがった。私が初めて知る曲を一緒に聴き、新しく購入した私の靴をジェイド先輩がガラスの靴を履かせる王子様のように私に履かせ、私が初めて読む本を見つければ私がそれを読み終わるまで私の側から離れなかった。
 一方のフロイド先輩は、ジェイドの次でいいよと笑っては、何事にもジェイド先輩の次に徹した。ジェイド先輩と聴いた曲をフロイド先輩と聴き、新しい靴を履いた次の日にフロイド先輩が私の足に王子様よろしく靴を履かせ、私が読み終わった本を俺が次に読むからと持って行く。
 そんな2人の私に対する接し方に、私は何かを言いたくても言えずにいた。私はジェイド先輩とフロイド先輩の共有物であり、自分の気持ちが揺らいだ私なんかが文句を言う資格がない。
 私は、ジェイド先輩の柔らかく笑う優しい表情が好きだった。時折戯れに私の頬や髪を撫で、ほんのりと頬を赤く染めて目を細める仕種に胸がきゅうと締めつけられて、気がつけば恋に落ちていた。
 フロイド先輩は、最初こそ強引だったけどそのあとは無理強いしなかった。ジェイドと俺のものなんて言いつつも、その行動には一線を引いていた気がする。桜並木の下で私に2度目のキスをしたのも、私の気持ちがフロイド先輩に傾き始めているのを分かっていたからなのだろう。あどけない顔で笑うフロイド先輩に、何も想わずにはいられなかった。


 呼ばれて振り向くと、私の身体が無理矢理何処かの教室に押し込まれた。
 マジカルペンを一振りして戸を閉めるリドル先輩と、適当に開いた席に私を座らすアズール先輩の姿に、私はただ瞬きを繰り返すだけだった。

「この教室は2年の選択授業のみで使用する教室ですので、あまり人は来ないでしょう」

そう言いながら短く息を吐いたアズール先輩が私の隣の椅子に座った。一方のリドル先輩は、机越しに私の向かい側に立って両腕を組んだ。

「キミ。大丈夫かい?」

リドル先輩の問いかけに、私は何をと口を開こうとして固まった。頭の中に浮かぶのは、ジェイド先輩とフロイド先輩のことだった。つい、リドル先輩から下を見る。ぎゅうと目を瞑るのと同時に私の背中がぽんぽんと優しく撫でられた。

「ジェイドとフロイドは、昔から好きになるものが同じなんです。あの2人、似てないようで根本的な考えが似ている、そういう困った奴等でしてねえ」

アズール先輩が溜息混じりにそう言った。私が瞼を開けてリドル先輩の顔を見ると、私と目が合ったリドル先輩は眉を下げて微笑んでみせた。

「キミがつらいなら、あの2人から距離を取るといいよ。それ以上は、キミが思い悩んで壊れてしまう」

私はふるふると首を横に振った。私は、ジェイド先輩とフロイド先輩から距離を置きたいわけではない。

「違うんです。私、ジェイド先輩のこともフロイド先輩のことも好きになっちゃったんです。2人のことで、頭の中がいっぱいで。私、最低な人間なんです」

ぽたりと涙が溢れた。泣きたいのは私なんかではなく、いつも同じものを好きになってしまうジェイド先輩とフロイド先輩の方なのに。

「どちらかを選べないくせに、2人の想いに甘えて手を振り解こうとしなくて。私、」

横からすっと綺麗にアイロンされたハンカチを差し出され、涙をそのままにそちらを見ればアズール先輩が眉を下げて微笑んでいた。

「やっぱり、あなたを困らせていましたか」

無理矢理私の手にハンカチを握らせたアズール先輩は、再び私の背中を撫で始めた。

「あなたがジェイドとフロイドのことも恋情として見ているのなら、それでいいと思いますよ」

「そんなの、ただの2股不倫じゃないですか」

「世間が何と言おうと、当事者のあなた方が構わないのであれば。それでいいのではないでしょうかねえ」

アズール先輩が、長い睫毛を震わせた。

「幼い頃からずっと、同じものを欲しがって、共有して、そのくせそれを自分のものだけにしたい。あの2人は、矛盾しているんです」

アズール先輩の表情が緩んだ。それは、友人を思う優しい表情だった。

「あの厄介な2人の矛盾を、受け止めてくれてありがとう」

お礼を言われるようなことをしていないのに。そう思いながら、ふるふると首を横に振る私をアズール先輩が黙ったまま私の背中を撫でるだけだった。

「もし、またキミを困らせるようなら、ボクのところにおいで。即刻、あの2人の首をはねてあげよう」

リドル先輩に視線を向けると、リドル先輩はそう言っていつもの調子で笑ってみせた。私は、流れっぱなしの涙をアズール先輩に借りたハンカチで拭いた。

「ありがとうございます。ご心配、おかけしました」

泣き笑いみたいな不格好な笑みを口元に作る私に、アズール先輩とリドル先輩がようやくホッとしたような表情を浮かべてくれた。


 悩んだって仕方がない。好きになってしまったのはしょうがない。
 開き直ったと周りに言われてもいいやと思いながら、私は前を向くことを決めたのだった。

2023.04.10