
Bookso beautiful yet terrific.
朝、グリムが熱を出した。ぜーぜー苦しそうにするグリムの姿に、凄く心配した。
「グリ坊はわしらが看てるからキミは学校へ行っておいで。グリ坊の分まで、勉強を頑張るんだよ。いいね?」
と、オンボロ寮内に住み着くゴースト達に言われて私は後ろ髪を引かれる思いをしながら登校した。
ところが。教室に着いてからすぐ、エースとデュースからもスマホにメッセージが入っていた。2人とも熱を出してしまい今日は休むとのことだった。
「みんな風邪引いちゃったんだね。大丈夫かなあ」
スマホの画面を眺めながら、私の口からは心配で溜息ばかり出るのは当然のことだった。
今日は帰りに軽く食べられるような差し入れを購買で買って行こうと決め、その日の私は暗い気持ちのまま過ごし始めた。クラスメイト達も休み時間になるたびに、風邪で休む2人と1匹を心配する素振りを見せていた。
「みんなで押しかけたら悪いし。エースとデュースの差し入れは誰かハーツラビュルのやつに頼んで、グリムの差し入れは監督生に渡してもらおうぜ」
という結論に至った。
さて。マブ達を心配しながらも時間は刻々と過ぎていた。今の時刻は昼休みだった。私は食堂のカウンターで1人食事の乗ったトレーを受け取ってから空いている席に座る。いつも賑やかな友人達に囲まれて食事するので、席に1人しかいないこの状況に物凄く違和感を感じた。
私が落ち込んでても仕方がないし。まずは食べよう!そう思いながら注文したシーフードスパゲッティにフォークを絡める。一口目を頬張り、次に数ある魚介の一つであるタコにぐさりとフォークを刺した時だった。
「これはこれは。監督生さんではありませんか」
にこにこと胡散臭い笑み、いえ、人の良さそうな笑みを携えたアズール先輩がトレーを持ったまま私を見下ろした。
「こんにちは、監督生さん。本日の昼食はシーフードスパゲッティですか。おいしそうですね」
「小エビちゃんにタコちゃんぶっ刺されてておもしろいねえ」
同じくトレーを持ったジェイド先輩とフロイド先輩の姿に、つい瞬きしてしまうが。まずは先輩達に挨拶を返すことにした。
「こんにちは」
「こちらの席、失礼しますね」
私の挨拶をそこそこに、アズール先輩がにこにこ顔のまま私の向かい側の席に座った。続いて、私の右隣の席にジェイド先輩が、左隣の席にフロイド先輩が当たり前のように座ってくる。私は固まるしかなかった。
「それでは僕達もいただきましょうか」
アズール先輩の言葉を合図に、ジェイド先輩とフロイド先輩もいただきますと挨拶して食事を始めた。
「ジェイドのそれおいしそー。ちょーだい!」
「いいですよ。では、僕もそちらをいただいても?」
「いいよー」
なんて言いながら、双子の先輩達が私を間に挟んだままおかずの交換を始めるので、私にしてみれば困惑するしかない。
当然、私達の様子を遠くから見つけたアズール先輩達をよく知る生徒達からは哀れな目を向けられていた。
「監督生。何やらかしたんだろう?」
「あいつらに目を付けられるだなんて、ご愁傷様」
「俺さあ。監督生のこと、詐欺師に囲まれたカモにしか見えねえわ」
と、ひそひそと言われる始末である。
とりあえず、さっさと食事を終わらせようと思い直した私は、フォークに刺しっぱなしだったタコを口に入れる。もぐもぐとタコを咀嚼していると、じーっと視線を感じて、スパゲッティから前を見た。ばちっと私と目が合ったアズール先輩が、頬を赤く染めて戸惑った表情を浮かべていた。私が小首を傾げたのと同時に、アズール先輩はハッとしてから眼鏡のフレームを直した。
「今日は、いつもご一緒のお友達が体調不良で欠席だと窺いました」
2年生のあなたがなんで知ってるの?とツッコミたいが、どうせアズール先輩だしなあと思うくらいには、そんな人だとは理解しているつもりだ。
「だからねー、小エビちゃんが寂しくならないように今日はずーっと一緒にいてあげる」
「午後は選択授業ですよね?僕達も同じ授業なんです。一緒に授業を受けるの、楽しみですね」
両サイドにいる双子からそう言われて私は固まった。いやいやいや!?と思いながら私は慌ててタコをごっくんと飲み干してから抗議した。
「お気遣いありがとうございます!あの!午後は、」
「タコを舌で転がすだなんて。ずいぶんとまあ大胆な方ですねえ」
私の話なんぞ聞いてないかのように、アズール先輩は恍惚とした表情で何処か上の空だった。
「あ、あの!私、」
「小エビちゃん食べないのー?俺が食べさせてあげよっか?」
「では、僕の膝の上にどうぞ」
にこにこと、にこにこと、そっくりな顔で微笑んで圧をかけてくるフロイド先輩とジェイド先輩の姿に私の頬が引きつった。
「食べ終わり次第、授業の予習をしておきましょう。この僕が、優しく分かりやすく丁寧にじーっくりと教えて差し上げますのでご安心ください」
アズール先輩の言葉に、私は逃げ場がないことを悟った。
翌日、親友達の体調が回復せず私が1人で行動していると再びオクタヴィネル寮の先輩達に絡まれることになるのは言うまでもない。
2023.04.12