Bookso beautiful yet terrific.

 放課後。恭遠に捕まったせいで、図書館まで荷物を運ぶはめになった。図書館のカウンターにいる司書に恭遠から託された荷物を渡し、さっさと寮へ戻ろうと踵を返した時だった。
 微かに、咳き込む声が聞こえてきた。咳き込むなんてことは誰しもあるので普段なら気にする理由にもならなかったけど、その声はよく聞く人物のものだったので俺は思わずそちらへ足を向けた。
 図書館の奥まった席に、彼女がいた。彼女は薔薇の傷を宿す右手を口に当ててまだ咳込んでいる。

「マスター。大丈夫か?」

俺の問いかけに反応して振り向いた彼女は、言葉を発さず咳き込み続けている。俺は彼女の咳き込む苦しさを少しでも和らげようと椅子に座る彼女に合わせるように屈んで彼女の背中に自らの掌を当てて摩った。
 しばらくして、ようやく咳が落ちついた彼女が顔を上げて俺と目を合わせた。

「ありがとう、八九。もう大丈夫だよ」

眉を下げて微笑む彼女の姿に、俺は思わず固まった。ずいぶんと近い距離に彼女がいることに気がついた俺は、つい視線を右往左往させた。

「いや。まあ。別に。このくらいは、」

明らかに挙動不審になりながら距離を取る俺に対して彼女が特に触れずに笑う。それが微笑ましいと言わんばかりの顔をしているから、余計に気恥ずかしくなった。

「つーか、風邪引いた?」

気恥ずかしさを隠すように俺が尋ねると、相変わらず真面目な彼女はうーんと首を傾げてみせた。

「空気を吸ったら咳が止まらなくなっちゃって」

「それを人間は風邪と呼ぶんじゃね?」

「大変。早く薬を飲まないと」

暢気に笑う彼女に対し、俺は小さく息を吐いた。

「悪化しても知らねー」

「うん。気をつけるよ」

特に深刻そうにせずに返事する彼女に俺は何も言えなくなった。彼女は目先のやることを済ませないと、自分のことなんぞいつまで経っても気にもしないような性格だ。だから、今は何を言っても無駄。
 彼女と同じテーブルに設置してある椅子に俺も腰掛ける。それからテーブルの上に広げてあるノートや資料を指で示した。

「それで。何か調べてるのか?」

「え?ああ、うん。今日新しく習ったところが分からなくて」

「俺が分かる範囲なら教える。分からないのは俺も調べるから、とりあえずその習ったやつ言ってみて」

「助かるよ。八九、ありがとう」

へらりと笑う彼女からつい視線を外した。とにかく、彼女のやるべきことを終わらせてさっさと風邪薬を飲ませよう。
 そして。俺も、何故か耳が熱いから貴銃士にも効く風邪薬をあとで恭遠から貰おうと思った。

2023.04.22