Bookso beautiful yet terrific.

 ある日の休み時間のことだった。外廊下を歩く私の元へ音もなく現れた学園長から、春だからというよく分からない理由で真っ白いワンピースと光沢のある黒いハイヒールをプレゼントされた。
 優しい学園長の厚意に甘えた私は丁寧に箱詰めされたワンピースとハイヒールの入った紙袋を持って、放課後にオンボロ寮へ戻った。出迎えてくれたゴースト達に挨拶もそこそこに、私は自室へ向かう。それから隠し切れない嬉しさのまま、勢いよく制服を脱いでは箱の中から例のワンピースとハイヒールを取り出した。

「このワンピースすっごくかわいい!!!」

部屋に設置した大きな鏡の前でまずは自分の身体にワンピースを当ててみる。ところどころレースとリボンをあしらったワンピースのかわいらしさにだらしなく頬を緩ませた私は、ようやくワンピースに袖を通し、ハイヒールに足を入れて、再び鏡の前に立った。
 いかにも女の子そのものという感じの服装の私を鏡越しに見て、少し恥ずかしくなった。なんだか、おとぎばなしに登場するヒロインみたいだと思う。
 鏡の前でくるりと一回転してから、室内に置いたままの黄色い帽子が目に入った。つい、それに手を伸ばして被る。どうせならと、ドレッサーの引き出しからワンピースに合うネックレスを探しそうとそちらに足を向けようとした時だった。
 オンボロ寮内に来客を知らせる呼び鈴が鳴り響く。それからゴースト達が誰かを応対する声が聞こえてきた。私はドレッサーに向かうはすだった足をすぐに玄関の方へ向ける。玄関にはゴースト達と話すアズール先輩の姿があったので、私は挨拶しながら近づいた。

「こんにちは。アズール先輩」

「ああ、監督生さん。実は、昨日グリムさんがラギーさんと一緒にモストロ・ラウンジにやって来て料理を食べ散らかした件についてあなたに損害賠償を請求、いえ、ご報告をしたく参りました」

ゴースト達の背中越しに僅かに見えるアズール先輩の姿から、今さらっと、とんでもない話を聞かされた気がする。私は、うわあと思いつつもゴースト達の前に出てアズール先輩と対峙した。

「ありがとう。あとは、私が話を聞くよ」

「はいよー。グリ坊には帰ってきたらお説教しないとね」

私と入れ替わったゴースト達はすーっと談話室の方へ戻っていった。一方、私はアズール先輩に向き直る。それからきちんと腰を折って謝罪した。

「すみません。グリムがそんなことをしていたなんて知りませんでした。グリムは今日、エースとデュースと一緒にハーツラビュル寮に寄り道してから帰って来るので、戻り次第よく言って聞かせます」

私が顔を上げると、アズール先輩と目が合った。しかし、アズール先輩は先程のお怒りの雰囲気とは打って変わってぽかーんと口を開けていた。

「は?」

 私と目が合ったアズール先輩の第一声がそれだった。私は思わず瞬きをする。そんな私の姿に我に返ったらしいアズール先輩はハッとしてから眼鏡のフレームを指で直し始めた。

「何処かへお出かけですか?」

「お出かけ?」

唐突な質問に、私は首を傾げそうになった。そこで、やっと自分の服装を思い出した私は苦笑いを浮かべた。

「違うんです。学園長からワンピースとハイヒールをいただいたので、つい嬉しくなっちゃって」

「が、学園長から!?」

「はい」

女性に服を贈るだなんて。と、ぶつぶつと何か呟きながら苦い表情を浮かべるアズール先輩の姿に眉を寄せる。まあ、確かに。1人の生徒にだけ学園長がプレゼントを贈るのは思うところがあってもおかしくないだろう。
 軽率に口に出したことを後悔し始めた時、アズール先輩が私と再び目を合わせた。それからおもむろに右手を伸ばして、私の左手をぎゅっと掴んだ。

「グリムさんの件は、あなたに免じて水に流します。その代わり、僕と一曲お付き合いください。いいですね?」

一曲?と思う間もなくアズール先輩に手を引かれ、そのままアズール先輩の左手が私の腰を抱き寄せた。何の曲も流れないオンボロ寮の玄関で、2人分の靴音が響く。そこで私は、これが社交ダンスだとようやく気がついた。

「お付き合いと言われても。私、社交ダンスなんてやったことないです」

「黙って適当に足を動かしていただければ結構です」

素っ気なく返しながら、アズール先輩の表情がますます歪んでいく。まったく楽しそうじゃないアズール先輩の表情に私は困惑するしかなかった。
 しばらく経って、ぴたりとアズール先輩の動きが止まった。それにつられるように私の足も止まる。どうやら無音の社交ダンスが終わったらしく、アズール先輩がすっと私から離れていった。

「では。僕はこれで失礼いたします」

「はい」

「そのお洋服を着て、週末モストロ・ラウンジにお越しくださいね。必ず」

「え?」

「その格好を僕以外の野郎どもに絶対に見せるな」

「え?何故?というか、ここ男子校ですよ。この学園にいれば無理だと思いますが」

「無理でも見せるな!!!絶対だからな!!!約束したからな!!!!!」

叫ぶようにそう言い捨てたアズール先輩は勢いよくオンボロ寮から出て行った。残された私は、わけが分からずただただ困惑するしかなかった。

「無茶苦茶だなあ」

つい、溜息が溢れる。とりあえず、学園長からのプレゼントの件はうっかり口を滑らせないよう気をつけようと思った。
 実は、この黄色い帽子もドレッサーの引き出しにしまってあるアクセサリーも、他にも全部、学園長からの贈り物はたくさんあった。結局、その数ある贈り物の存在をアズール先輩に知られてしまい何故かアズール先輩がとってもお怒りになる日が来ることを、私はまだ知らずにいる。

2023.04.22
踊る|女監督生受け版ワンドロワンライ