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 夏の大会を最後に部活を引退したら、いよいよ高校受験が待っている。行きたい高校というのはざっくりとは考えているけど、正直、まだ受験生としての自覚はなかった。悠長なことを言っている場合ではないことは分かっているけれど。
 今日も部活に精を出し、それからずいぶんと辺りが暗くなってから帰宅する。すると、リビングからわざわざ運んできただろう椅子に腰かけて玄関で待っているミカエルに出会した。

「おかえり。マスター」

「ただいま」

「とても乱れた音がしているね。何やら焦っているのかな?」

「焦ってはないけど。4月に入部してきた1年生達にどう教えていいか分からなくて悩み中ってやつだね」

「なるほど」

私の話を聞きながらミカエルが椅子から立ち上がる。私は玄関で靴を脱ぎ、まずは荷物を置こうと自室に足を向ける。すると、ミカエルも一緒に着いてきた。玄関に椅子を放置したまま。

「椅子。片付けないの?」

「僕が?何故?君の家族の誰かが片付けるから問題ないよ」

ミカエルの言い分に私の頬が引きつるが、いつものことなので仕方がない。
 私が自室の扉を開けて中に入ると、ミカエルも当たり前のように部屋に入って来る。そういえばと、ミカエルは何かを思い出したらしく小さく声を上げた。

「夏の大会。日程が決まったら教えて」

「ん?ああ、分かった」

「君の最後の晴れ舞台を、この目にしっかりと焼きつけておいてあげる」

私がミカエルに振り向くと、ミカエルは包帯に隠れていない方の自らの目を示しながら頬を緩ませていた。ミカエルが観に来るのなら、下手なところを見せるわけには行かないなあと思った。

「ありがとう。私、頑張る」

 私は、迫り来る受験の前に、まずは悔いのないように部活を全力で取り組もうと気合を入れ直した。

2023.04.27