Bookso beautiful yet terrific.

 休日のある日。案の定、かわいいお洋服に身を包んだ彼女がオンボロ寮から姿を現した。その彼女と一緒にグリムさんも現れた。

「それじゃあ、行ってきます」

「おう!気をつけて行ってくるんだゾ」

「グリムもハーツラビュルの人達に迷惑かけないでね」

「オレ様迷惑かけたことないんだゾー!!!」

ぷんぷんと頬を膨らませるグリムさんに対し、彼女は本当かなあと苦笑いを浮かべた。それから、いくつか会話を交わした1人と1匹は終わり次第別々の道を歩く。僕は迷わず彼女のあとを追いかけた。
 ナイトレイブンカレッジの敷地の前にある停留所からバスに乗り込んだ彼女は麓の街の入口で降りた。僕も彼女に気づかれないように素早く同じ場所でバスを降りる。僕に尾行されているなんぞ全く思ってないらしい彼女は街に並ぶお店のショーウィンドウに目移りしながらゆっくりと進んで行く。その横顔は、とても楽しそうだった。
 さて、いつ声をかけるべきか。彼女の背中を一定の距離を保って追いかけながら考える。早くしなければ、彼女が他の野郎と待ち合わせる場所に着いてしまう。
 やきもきしながら勇気を出せないまま彼女の背中を見つめた。

「週末、1人で出かけたいの。グリムのこと、お願いできる?」

先日。そう言いながら両手を合わせてお願いと眉を下げる彼女の姿を見つけてしまい、僕は思わず固まった。一方、彼女にお願いされたハーツラビュルのお友達は何の疑問も持たずにあっさりと了承するのだから、僕の開いた口が塞がらなかったのは言うまでもない。
 僕の眉間の皺がどんどん深く刻まれていく時、ふと、彼女が一軒の店の前で足を止める。彼女は店の入口に設置してある本日のお勧めメニューをじっと見つめたかと思えばすぐに扉に手をかけた。
 この店の中に何処ぞの馬の骨とも分からない野郎が彼女を待ち構えているのかと思った僕は、むしゃくしゃした気持ちのまま大股で彼女の元へ出向いた。

「これはこれは、監督生さん。こんな所でお会いするとは奇遇ですねえ。どなたかと待ち合わせの予定があるのでしょうけど、僕とランチに行きませんか?僕、おいしいと評判の良いレストランを知っておりますので。ぜひ」

現れた僕を見るなり、彼女が数回瞬きをした。彼女は少しだけ考える素振りを見せてから、自分がたった今入ろうとした店を示した。

「せっかくの申し出ですが、すみません。私、このお店のステーキが食べたいので」

彼女が行こうとしているのは全国展開している立ち食いステーキのお店だった。

「あなたはどうしても何処ぞの馬の骨とも分からない野郎とステーキデートがしたいんですか?」

「ステーキデート?」

彼女がまた瞬きをする。それからうーんと首を傾げてから口を開いた。

「よく分かりませんが。アズール先輩も一緒にどうですか?実は私、月に1度は好きなだけステーキ食べると決めているので。お付き合いいただけますか?」

「僕に、あなたに不埒な感情を向ける輩と同じテーブルにつけと?」

「そんな人いませんよ。アズール先輩って冗談も言うんですね。意外です」

くすくすと笑う彼女の姿に今度は僕が瞬きをする番だった。
 結局、僕は彼女と一緒に店に入った。彼女が何処ぞの野郎とステーキデートというのは僕の勘違いで終わりホッとした。しかし、それも束の間。

「いただきまーす!」

太陽のようにきらきらとした笑顔を浮かべた彼女が食事の挨拶をした。その彼女の目の前には熱々出来立ての2kgのステーキがあった。そして、推定1kgはあるだろう白米を盛る皿も一緒だった。

「それ。お1人で?」

「はい!」

心底幸せそうにお肉の山を頬張る彼女の姿をしっかりと記憶に刻みながら思う。
 彼女の食費を難なく稼げるほどの男になってから、結婚を前提としたお付き合いを彼女に申し込もうと。

2023.05.06
刻む|女監督生受け版ワンドロワンライ